医薬品QRMで無駄なフィッシュボーン作成はしなくていい!

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前回のブログ『【独言】医薬品GMP品質リスクマネジメントSOP作成のコツと注意点』において、品質リスクマネジメントのリスク分析の際に、フィッシュボーンを作成することはおすすめしないと書きました。
今回、その理由について、もう少し掘り下げてお話しします。

はじめに

医薬品GMP品質リスクマネジメント(以下「QRM」という。)では、ハザードの特定や評価が非常に重要です。その中でフィッシュボーンダイアグラム(特性要因図)を分析手法として使用している例がありますが、私は、実際の現場では効果的に機能しない場合が多いと感じており、QRMには適していないと考えています。以下に、その理由を詳しく述べます。

フィッシュボーンの基本的な使い方

フィッシュボーンダイアグラム(以下「フィッシュボーン」という。)は、問題の原因を洗い出すためのツールで、「石川ダイアグラム」としても知られています。この手法は、生じた問題の様々な要因を整理し、「人」「機械」「方法」「材料」「環境」などに分類して、原因を突き止めるものです。多くの企業やプロジェクトで問題解決の分析手法として活用されています。

フィッシュボーンをQRMへ適用する際の問題点

1. 未知のリスクを予見できない

フィッシュボーンの最大の弱点は、未知のリスクを予見する能力に限界がある点です。この手法は、既存の問題の原因追究には有効ですが、未発生リスクの網羅的な予測には不向きです。QRMでは、ハザードを網羅的に特定し未知のリスクを予測することが重要です。フィッシュボーンは特定の問題の原因分析には有効であるものの、QRMの初期段階で実施する意義は希薄です。

2. 影響評価ができない

フィッシュボーンを使用しても、原因と結果の関係を明確にすることが難しい場合が多いです。たとえば、”充填機の不具合”という問題を挙げた場合、その問題が製品の品質や安全性に具体的にどのような影響を及ぼすかを表現されることはありません。さらに、抽出された複数の要因の影響度も分析されることはなく、リスクの全体像の把握には至りません。そのため、フィッシュボーンはQRMにおいて影響評価を含む包括的なリスク分析には向いていません。

3. 根本原因の特定が困難

フィッシュボーンは問題の原因を洗い出すためのツールとして知られていますが、多くの要因が抽出されると、それらをすべて深く追求し、解決するのは現実的に困難です。抽出された要因が広範囲に散らばることで、どの要因が最も重要であり、解決すべき優先度が高いのかが不明確になることがあります。また、フィッシュボーンでは要因を広くリストアップすることに重きを置くため、深い分析に進むプロセスが曖昧になりがちです。その結果、リスクの根本原因を特定し、的確な対策を講じることが難しくなります。

フィッシュボーンとFMEAの適用順序

QRMの事例として、フィッシュボーンを先に実施してからFMEAを行うというアプローチが紹介されることがあります1)。このアプローチでは、フィッシュボーンで抽出された要因がFMEAで挙げた故障モードと関連付かないことが多く、時間と労力を浪費する可能性があります。たとえば、製造ラインの問題Aに特化した要因をフィッシュボーンで抽出しても、FMEAで網羅的に挙げた故障モードとの整合性が取れず、再分析が必要になることがあります。

FMEAがフィッシュボーンよりQRMに適している理由

FMEAでは、リスク評価をより詳細に行うことができます。特に、RPN(リスク優先数)のテーブルを作成し、重大性(Severity)、発生頻度(Occurrence)、検出可能性(Detection)の3つの要素を組み合わせて評価します。
すると、問題の優先度を定量的に決定することができ、リスクコントロールがしやすくなります。
FMEAを実施する際、RPNテーブルを完成させるためには柔軟なアプローチが有効です。一般的に推奨される故障モードの列挙から始める方法に加え、進行中の思考過程で失敗や故障が浮かび、それをRPNテーブルに当てはめる形で故障モードやハザードを逆行的に特定する場合もあります。このアプローチは、故障モードの推定が難しい問題に対して効果的であり、網羅的にリスク評価が可能となります。このような柔軟性により、FMEAはQRMの手法として好適です。

結論(QRMにおけるフィッシュボーンの限界)

フィッシュボーンは問題発生後の原因分析には有効ですが、予見的なリスク評価や深い原因分析には不向きです。QRMでは、リソースが限られている現実の中で効率的かつ効果的なリスク評価を行わなければならず、計画性のない全体要因の抽出に重点を置くフィッシュボーンの手法は、リスクの特定や優先順位付けにおいて非効率です。QRMの目的においてフィッシュボーンを採用する意義はほとんどなく、もし活用するのであれば、FMEAで特定した『主要な故障モード』や『特定の問題』に絞り込んだ原因の洗い出しツールとして、限定的に使用するべきです。しかし、その場合でも時間と労力が余計にかかるため、QRMにおいてフィッシュボーンを採用するメリットはほとんどはありません。

参考文献

1)厚生労働科学研究「GMP、QMS、GTP及び医薬品添加剤のガイドラインの国際整合化に関する研究」平成28年度 分担研究報告書, 厚生労働科学研究費補助金, 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究事業

略語一覧

RPN

  • 英語:Risk Priority Number
  • 意味:リスク優先数。重大性(Severity)、発生頻度(Occurrence)、検出可能性(Detection)のスコアを掛け合わせた数値で、リスクの優先順位を決定するために使用

FMEA

  • 英語:Failure Modes and Effects Analysis
  • 意味:故障モード影響解析。製品やプロセスにおける潜在的な故障モードを特定し、その影響や原因を評価する手法

QRM

  • 英語:Quality Risk Management
  • 意味:品質リスクマネジメント。ICH Q9ガイドラインに基づき、リスクを体系的に特定、評価、コントロール、監視するためのプロセス

ICH Q9

  • 英語:International Council for Harmonisation – Quality Risk Management
  • 意味:医薬品業界向けのリスクマネジメントに関する国際的なガイドライン

故障・不良

  • 英語:Failure
  • 意味:期待される機能や仕様を満たさない状態、システムやプロセスが意図した機能を果たさない状態(機能不全)
  • 例: アンプル瓶の破損、充填不足、製品の異物混入

故障モード

  • 英語:Failure Mode
  • 意味:故障や不良が発生する具体的なメカニズムや方法(機能不全の形態)
  • 例:充填機のノズルが瓶に接触。充填圧力が過剰。瓶搬送中の過剰な振動や衝撃

余談

私自身、フィッシュボーンが特に強力だという具体的な成功事例はあまり聞いたことがありません。多くの場合、それが解決策の一部として使われることはあっても、最終的な改善に大きな影響を与えた例は少ないかもしれません。

それとは別に、FMEAの故障モードの概念が一般の人にはわかりにくく、そのような中で故障との厳密な区別が求められることに、私はあまり意味がないと感じています。故障モードという概念は、FMEAの理論的な枠組みの中で重要だと言われることが多いですが、実際に現場で使いやすいかどうかという観点では、指導をしていく中でその重要性に疑問が生じてきます。また、故障モードの概念が実用的なリスク評価や原因分析にどれほど貢献しているのか、現場でどう活用されているのかという点については、不明な点も多いのも事実です。そして、理論的に故障モードを重視しても、具体的な問題解決に直接的に貢献するかどうかは別問題です。
実際には実用性や現場での有効性を最優先にしたアプローチが、より有意義なリスク管理を提供する場合も多いです。実際のリスク評価や問題解決にどれだけ寄与するかを重視し、「理論に基づいて何が良いか」をではなく、「実際に有用か」を基準に判断してほしいものです。


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