私KenUは、自動車のタイヤに窒素ガスを入れています。
そこで今回、窒素ガスを入れることの効果・メリットを物理化学的視点から検証してみることにしました。
その結果、本当の効果は、たった1つしかないことが判明しました。
また、タイヤの空気圧調整における注意点を説明しました。
目次
航空機の場合のウソ・ホント
車のタイヤに窒素(N2)ガス(以下「窒素」という。)を入れる効果として、航空機のタイヤの例を持ち出しているケースがあります。
そこで、まずは、航空機のタイヤに窒素を入れる理由について書きます。
FAAによる規制
FAA( Federal Aviation Administration、アメリカ連邦航空局)規制(CFR14 Section25.733)に次の内容があります。
(e) 75,000ポンド以上の最大証明離陸重量を持つ飛行機の場合、ブレーキ付きホイールに取り付けられたタイヤは、タイヤ内のガスが体積の5パーセントを超える酸素を含まないように、乾燥窒素または不活性であると証明された他のガスで充填されなければなりません。 ただし、タイヤライナーの材料が加熱時に揮発性ガスを発生しないことが証明できる場合、またはタイヤ温度が危険なレベルに達するのを防ぐ手段が提供されている場合を除きます。
引用:Code of Federal Regulations § 25.733 Tires.
*
この要件は、過熱したタイヤから発生する揮発性ガスと空気中の酸素が結合し、自己発火温度に達した時に爆発が発生した事例を検証した結果に基づきます。(参考:Federal Register: February 26, 1993 (Volume 58, Number 37))
ということで、航空機のタイヤに窒素が入れられる理由は、爆発防止のためです。
ボーイング777の場合、着陸時の速度は250km/hを超え、着陸時には、航空機が地表に接触する際にブレーキが使用され、タイヤが急速に減速するため、摩耗や過熱が生じ、タイヤ表面温度は250度以上にもなります。(参考:BRIDGESTONE, 航空機用タイヤ, 技術, 航空機用タイヤの特徴)
水蒸気の凍結
一方で、空気は水分を含むため、-50℃にもなる上空10,000mで水分が凍結してタイヤ空気圧が不安定になるので、窒素を入れることで圧力が安定するといった、まことしやかな話があります。
例として、20℃、湿度65%の空気をタイヤにいれた場合を計算してみます。
水蒸気の分圧の割合は、空気圧全体の15/1000に過ぎません。
では、空気中の水分はどれくらいなのでしょうか?
空気中の水蒸気量 = 飽和水蒸気量(g/m3) × 湿度(%) = 17.3261 × 0.65 = 11.3 g/m3
体積に換算すると、水1g = 1cm3 だから、11.3 cm3/m3
水が凍結すると体積は約1.1倍になるので、11.3 × 1.1 = 12.4 cm3/m3
空気中の凍結水の体積の割合に換算すると、12.4 cm3 / 1000000 cm3 = 12.4 ppm = 0.00124 %
このように極めて微量の水分が凍結したからといって、タイヤ空気圧の安定性に影響はありません。
むしろ、空気が冷えて収縮することによる空気圧の低下の影響のほうがはるかに大きいと言えます。

自動車の場合のウソ・ホント
いよいよ、自動車のタイヤの場合について考えていきます。
日本国内における自動車の最高走行速度を考えた場合、タイヤが自己発火温度に達して爆発する危険性はありません。
ネット検索すると、窒素の効果の説明として次の内容を見つけることができます。
- ガスが抜けにくくなる
- 温度の変化に強い(圧力が安定する)
- タイヤの劣化を防ぐ
- ホイールが錆びにくくなる
- 走行中の静粛性が増す(ロードノイズが減る)
これらの真偽を以下に確かめていきます。
ガスが抜けにくくなる
YESです。
空気の組成は次のとおりで、ほぼ窒素と酸素からなります(出典:Wikipedia, 空気)。
- 窒素(N2) : 78.084%
- 酸素(O2) : 20.9476%
- アルゴン(Ar) : 0.934%
- 二酸化炭素(CO2) : 0.041%
天然ゴム(NR)、合成ゴム(SBR:スチレンブタジエンゴム)に対する気体の透過性を次に示します。
| 窒素(N2) | 酸素(O2) | |
| 分子量 | 28 g/mol | 32 g/moL |
| NR透過度(25℃) | 6.12 | 17.7 |
| SBR透過度(25℃) | 4.8 | 13.0 |
| NR透過度(50℃) | 19.4 | 47.0 |
| SBR透過度(50℃) | 14.5 | 34.5 |
空気中に21%含まれる酸素のゴム透過性は、窒素の2倍以上です。
なので、タイヤに空気を入れた場合、酸素が早く抜けていきます。
ちなみに、二酸化炭素(CO2, 分子量44 g/mol)のNR透過度(25℃)は、窒素の16倍(99.6)です。
タイヤの空気圧低下については、NHTSA(米国運輸省道路交通安全局)がオールシーズンタイヤの31モデルのタイヤを使用して、12か月の調査を実施しています。
タイヤとホイールは新品で16,000マイルのトレッド摩耗テストに使用しました。
その結果を次に示します。
| 窒素(N2) | 空気(Air) | |
| テスト前ガス充填圧 | 30 psi (207 kPa) | 30 psi (207 kPa) |
| 12か月テスト後残存圧 | 27.8 psi (192 kPa) | 26.5 psi (183kPa) |
| 圧力減少/12か月 | -2.2 psi (-15 kPa) | -3.5 psi (-24 kPa) |
窒素は空気よりも圧が減りにくいことが分かります。
また、タイヤ内面にインナーライナー技術として、天然ゴムよりも空気バリアー性が10倍以上高いブチルゴムがコーティングされていても、ガスが抜けることが分かります。
タイヤの空気圧が不足すると、転がり抵抗が増加して車の燃費が損なわれます。
なので、窒素は空気よりもゆっくりとタイヤから抜けるため、燃費を助ける可能性があります。
しかし、NHTSAのラボレポートでは、適切なタイヤ空気圧を維持していれば、空気の代わりに窒素を入れてもタイヤの転がり抵抗性能に直接的な影響はほとんどないことが判明しています。
| 窒素(N2) | 空気(Air) | |
| 転がり抵抗 | 12.65(12.21~13.08)LBS = 5738(5538~5933)g | 12.80(12.42~13.18)LBS = 5806(5634~5978)g |
また、乗⽤⾞⽤タイヤの場合は空気圧が 1 psi (8.9 kPa)低下するごとに転がり抵抗が 0.85% 増加することが示されました。
温度の変化に強い
NOです。
膨張率は理想気体の場合、ボイル・シャルルの法則にしたがい気体の種類を問わず同じです。
Pは圧力、Vは体積、Tは絶対温度
P1V1 / T1 = P2V2 / T2
(参照:Wikipedia, ボイル=シャルルの法則)
理想気体の体積膨張率
β = 1 / T
(参照:Wikipedia, 熱膨張率)
なので、窒素も酸素も空気も温度変化に対するタイヤ圧力の変化は同じです。
空気中の水分は影響しないことについては、前述(航空機のタイヤの項)で説明したとおりですが、水蒸気も気体なので窒素や空気と同様の理想気体の体積膨張率を示します。
補足:水蒸気は気体なので目に見えません。湯を沸かしたときに白く見える湯気というのは、水蒸気が冷えて水の粒(液体)に戻った状態のものです。
タイヤの劣化を防ぐ
厳密にはYESですが 、効果としては通常はNOです。
たしかに、空気中の酸素はタイヤのゴムを酸化し、タイヤを劣化させます。
また、酸素だけでなく、外側からの紫外線やオゾン等の影響により、タイヤ外側の劣化も進みます。
しかし、通常、タイヤの耐用年数は走行距離に応じた摩耗に依存するため、タイヤ内側・外側ゴムの劣化が問題になるずっと前に(長くても4年ほどで)タイヤ溝が減り、新品タイヤに交換することになります。
なので、タイヤ寿命を延ばすという点では、窒素を入れる効果はありません。
ただし、例外として、車に乗る頻度が低い人の場合は効果があります。
空気の場合、5年以上タイヤの溝の減りが少なかったとしても、エアバルブのゴムの劣化により空気漏れが生じたり、タイヤトレッドの劣化(硬化)により制動性能が低下します。
窒素を入れた場合、エアバルブの劣化が抑えられるほか、タイヤ自体もゴム分子隙間に窒素が入り込むため劣化が抑えられます。
つまり、車にあまり乗らない人にとっては、タイヤの寿命が延びる点で窒素充填は有効です。
関連記事参照リンク→『タイヤに窒素を入れるといい人・いらない人は?年間走行距離が分かれ目!』
だだし、タイヤメーカーは、製造後10年以上使用しないことを推奨しています。
タイヤの予想耐用年数はどれくらいですか?
*ほとんどのタイヤは 10 年に達する前に交換する必要がありますが、スペアタイヤを含め、製造日から 10 年以上使用されているタイヤは、たとえ使用可能であるように見える場合や法定摩耗限界に達していない場合でも、簡単な予防策として新しいタイヤに交換することをお勧めします 。
引用:Michelin Tire FAQs: Answers to Common Questions
*
ホイールが錆びにくくなる
NOです。
先に計算したように、20℃、湿度65%の空気の水分量は11.3ppmです。
そもそも、エアーコンプレッサーにはウォータードレンバルブとミストトラップがあり、供給エアーはほぼドライです。
また、タイヤ内側のホイール部に砂や石が当たって傷がついたり、雨風にさらされることもないので錆びることはありません。
「タイヤに空気を入れた場合、空気中の酸素が水素とが結びついて発生する水がホイールを錆びさせる」といった説明をしているサイトがありますが、水は発生しません。
燃焼などの十分なエネルギーがなければ水を生じる反応(2H2 + O2 → 2H2O )は起こりせんし、空気中の水素濃度は極めて微量(0.00005%以下)です。
走行中の静粛性が増す
NOです。
「窒素ガスは、空気と比べれば音の伝導率が低く、タイヤが地面と接触することで発生する音を抑えることが出来る。そのため、タイヤに窒素ガスを充填すれば走行中の室内の静粛性が増す。」と説明しているサイトがあります。
ロードノイズは減りません。
音の大きさや伝わり方に係わる数値の違いを次に示します。
| 窒素(N2) | 空気(Air) | |
| 音速(20℃, 1atm) | 349.3 m/s(乾燥) | 347.8 m/s(湿度65%) |
| 密度(20℃, 1atm) | 1.165 kg/m3 | 1.205 kg/m3 |
| 体積弾性率 | 1.4 × 105 Pa | 1.4 × 105 Pa |
窒素と空気の音の伝播に係わる物性に大きな違いはありません。
また、ロードノイズはタイヤ外側の問題なので、窒素は全く関係ありません。
もし窒素を入れて「静かになった」、「乗り心地が良くなった」と感じたのだとすれば、新品のタイヤに替えて空気圧調整したためか、プラセボ効果でしょう。
結論:空気圧の維持が重要
以上により、自動車のタイヤに窒素を入れることの効果・メリットは、空気よりも長い時間タイヤの空気圧を維持しやすいだけ、ということが分かります。
ただし、あまり車に乗らずタイヤ溝の減りが遅い人にとっては、新品タイヤへの交換頻度を減らせる効果はあります。
ガソリンスタンドでのタイヤ空気補充の注意点
KenUは、ガソリンスタンド(以下「GS」という。)で空気を入れたことが、一度もありません。
2000年くらいまでは、ときどき自分で足踏み式エアーポンプ(↓ このような)を使って空気を補充していました。
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ポンプが壊れてしまってからは、新品のタイヤには窒素を入れるようになりました。
空気圧が下がらなくなって、その上、半年ごとに夏タイヤと冬タイヤをタイヤショップやディーラーで入れ替えてもらったとき、車検・法定1年点検のときに調圧されるので、自分で空気圧を測ったり空気を補充したりすることを全然しなくなりました。
さて、GSで空気を補充するときの注意点が2つあります。
- GSに到着するまでにタイヤが温まる
- エアーコンプレッサーによる高圧縮空気の吐出温度が高いことがある
すると、適切に車両指定空気圧(以下「指定圧」という。)にできません。
というのは、指定圧は、冷えたタイヤが基準だからです(下図参照:Tire pressure cold tires)。
たとえば、GSまで車両走行してタイヤが40℃に温まった状態で、40℃の空気を入れて指定圧(例:220kPa)に調整した場合(下表:最右列、最下行)、タイヤが冷えたときに指定圧を満たしません。
なので、車両走行前のタイヤが冷えているときに、発熱の少ないポンプで指定圧に調整するのがベターです。
整備士からのアドバイスでは、ガソリンスタンドで空気を補充する場合、指定圧よりも10~20kPa程度高めに入れたほうがよいとのことです。
KenUの車は「Warm Tires up to +30kPa(温かいタイヤはプラス30kPaまで)」となっています。
なお、窒素を入れたタイヤに空気を補充しても窒素濃度はさほど低下しません。
関連記事参照リンク→『【検証】タイヤに窒素ガス vs 空気|酸素や水蒸気の影響は?』
ということで、窒素の疑問に対する答えがクリアになりました。
タイヤに窒素を入れるのか?
それとも空気を入れるのか?
人それぞれの考えで良いと思います。
窒素を入れる派と空気を入れる派との間で、「意味がある」とか「意味がない」とかの論争は不毛ですから控えるのが賢明です。
ミシュランは、窒素、空気にかかわらず、空気圧を維持することが重要だと述べています。
タイヤに窒素を使用することについてどう思いますか?
窒素は不活性ガスです。 それは酸素が除去された単なる乾燥した空気です (空気にはほぼ 79% の窒素が含まれています)。 窒素の物理的特性は、タイヤの材料の自然透過性により圧力損失を軽減します。 残念ながら、他の考えられる漏れ源 (タイヤとリムの境界面、バルブ、バルブとリムの境界面、ホイール) があり、空気または窒素を注入する場合、圧力維持の保証が妨げられます。 ミシュランが製造するタイヤは、ユーザーが車両のプラカードまたはタイヤメーカーが推奨する空気圧を遵守する限り、空気または窒素を充填したときに期待される性能を発揮するように設計されています。 タイヤの空気圧が空気か窒素かにかかわらず、タイヤの空気圧が不足していると次のような問題が発生するため、定期的に空気圧を維持することが依然として重要です。
引用:Michelin Tire FAQs: Answers to Common Questions
- ロードホールディングの削減路面のグリップの低下
- 濡れた路面での牽引能力の低下
- 路上の危険に対する感度の増加
- トレッド寿命の低下
- 燃料消費量の増加
- 過度な変形からの過剰な熱によるタイヤ寿命の低下
KenUは、電動草刈機用のマキタ(makita)の10.8Vの充電式バッテリーをもっているので、Makitaの充電式空気入れ MP100DZ (↓ )を購入しています。
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