以前『公的年金はいくらもらえる?受給額の平均と支出額の関係』という記事を書きました。
私KenUはまだ年金受給年齢に達していませんが、既にリタイアしているので将来の年金制度がどのように変化するのか気になるところです。
そこで今回は、政府(厚労省)が発表した「厚生年金の積立金を活用して基礎年金(国民年金)の給付水準を3割程度引き上げる案(通称:基礎年金底上げ案)」(以下「制度改定案」)について、具体的な金額をシミュレーションしてみました。
はじめに
この制度改定案の説明が非常に分かりにくいんです。
年金がどのように変化するのか?、金額は増えるのか?減るのか?など、詳細が見えてきません。
そこで、自分なりに制度の内容を整理し、具体的に受け取れる年金金額がどのようになるのか、シミュレーションをしてみることにしました。
もしかしたら、解釈や計算に誤りがあるかもしれませんが、以下は私が理解した内容です。
現行制度の概要
まずは、現行制度をわかりやすく簡単に整理します。
- サラリーマンの年金は、老齢基礎年金(以下「基礎年金」)と老齢厚生年金(以下「厚生年金」)の合計で構成
- 年金額は、物価や賃金の上昇率(以下「上昇率」)に応じて毎年改定され、たとえば上昇率が2%なら、年金も2%上乗せになるのが原則
- ただし、財源の制約があるため、「マクロ経済スライド」という仕組みを採用することにより、年金の伸びは抑えられる
- たとえば、上昇率が2%の場合、マイナス0.9%のスライド調整により、年金改定額はプラス1.1%にとどまる
- 厚生年金(報酬比例部分)は2025年度にスライド調整終了予定
- 一方、基礎年金は2047年度にスライド調整終了予定としているが、最大で2057年度まで続く可能性がある
つまり、現行の仕組みは、特に低所得者、非正規雇用者や自営業者など基礎年金のみの受給者にとって厳しいものとなります。
年金格差が拡大する要因になっているとも言えます。
シミュレーション条件
制度改定案では、基礎年金のマクロ経済スライドの調整期間を短縮し、2036年度に終了させるというものです。
その一方で、厚生年金の積立金を基礎年金に充当することにより、厚生年金のマクロ経済スライド調整期間は2036年度まで延長されます。
そこで、次の条件で現行制度と制度改定案をシミュレーションし比較してみます。
- 厚生年金保険料:大卒(22歳、男性)で就職し、定年退職(60歳)まで38年間納付
- 国民年金保険料:20~21歳の払込みは免除
- 年金受給開始:2025年度(65歳)
- 2025年時点の年金額(月額):
– 基礎年金65,000円
– 厚生年金105,000円
– 合計170,000円(※1参照) - 上昇率:2%(毎年)
- マクロ経済スライドの終了年:
– 現行制度 / 厚生年金2025年度、基礎年金2057年度
– 制度改定案 / 厚生年金・基礎年金ともに2036年度 - 年金改定率:2%(上昇率)ー0.9%(スライド調整率)= 1.1%
- 受給シミュレーション期間:2025年度~2065年度(40年間:65歳~105歳)
グラフ(1)年金額の推移(実額)
各年における年金の支給額(月額)の推移を次のグラフに示します。
- 折れ線:現行制度における、基礎年金、厚生年金、合計額
- 縦棒 :制度改定案における基礎年金、厚生年金、合計額

結果として、制度改定案では、現行制度よりも基礎年金の水準は増える一方、厚生年金の水準は減少します。
また、年金合計額は、現行制度よりも徐々に減少し、差は開いていきます。
ただし、2058年には、その差は解消されます。
現行制度では、基礎年金、厚生年金ともに緩やかに増加し続けます。
にもかかわらず、「基礎年金の給付水準を3割程度引き上げる」と発表されています。
いったい、どういうことなのでしょうか?
その点については、後ほど説明します。
グラフ(2)年金額の差(現行制度との比較)
現行制度と制度改定案の金額の差(基礎、厚生、合計)を次のグラフに示します。

制度改定案の基礎年金は、2037年以降に、現行制度よりも徐々に増額していきます。
しかし、2036年には、厚生年金および合計額は、12,000円(月額)減少します。
そして、65歳から85歳(2025年~2045年)(※2参照)までの累積受給額の差は、マイナス189万円になります。
グラフ(3)相対的年金額の推移(実質価値)
物価が上昇すれば、同じ金額でも実質的な価値は下がります。
そこで、2025年を基準(100%)として、物価上昇分を考慮して換算した、相対的な年金額の推移を次のグラフに示します。
- 折れ線:現行制度の相対年金額(基礎、厚生、合計)
- 縦棒 :制度改定案の相対年金額(基礎、厚生、合計)

現行制度では、基礎年金の実質価値は2057年まで低下し続けます。
その一方で、厚生年金については、マクロ経済スライド調整が終了しているので、実質価値は一定です。
制度改定案では、2036年以降の基礎年金の実質価値の低下は抑えられます。
その一方で、厚生年金の実質価値は2036年まで低下し続けます。
グラフ(4)給付水準の変化(割合)
2025年を基準とした年金給付水準(年金額の実質価値)の割合を次のグラフに示します。

グラフは、物価上昇を考慮した「実質的な購買力の変化」を示しており、年金額の“価値の目減り”を視覚化しています。
現行制度では、2057年には基礎年金の実質価値は75%程度に、年金合計の実質価値は90%程度にまで低下します。
制度改定案では、2036年までに基礎年金、厚生年金ともに実質価値は90%程度にまで低下するものの、それ以降は安定します。
つまり、政府の言う「3割引き上げ」とは、この実質価値を75%から90%へ回復させることです。
ただし、本シミュレーションでは、実際の引き上げ幅は2割(1.2倍)にとどまっています。
まとめ
以上、私なりの理解に基づいてシミュレーションした結果を紹介しました。
制度改定案は、就職氷河期世代(※3参照)や現役世代の将来の年金水準を意識した設計なのかもしれませんが、すでに年金を受給しているシニア世代やリタイア世代、特に厚生年金の受給者にとっては、納得しがたい内容とも言えます。
現実には、毎年2%の経済成長や賃金・物価上昇がコンスタントに続くとは考えにくいですが、そういった想定で計算した場合、65歳から85歳までの20年間で、約190万円の年金が減額されることになります。
年金の絶対的な金額としては、増加しますが、物価高を考慮した相対的な実質金額は、現行制度よりも大きく低下するわけです。
はたして、このような制度が本当に施行されるのでしょうか?
国民はこれで納得するのでしょうか?
基本的には、現在の年金受給者の生活水準を維持しつつ、現役世代の将来の年金受給水準を維持することが可能な制度を設計していくべきと感じます。
今後の議論と制度設計の動向に注目していきたいと思います。
(※1)e-Stat(政府統計)の「年金制度基礎調査(老齢年金受給者実態調査)令和4年」「配偶者の有無別・性別・本人の年齢階級別・本人の公的年金年金額階級別 本人の収入が公的年金のみの受給者数」データ
[出典:『公的年金はいくらもらえる?受給額の平均と支出額の関係』IKINARI LARCブログより]
(※2)2045年の日本人男性の平均寿命:85.06歳(死亡定位)、84.03歳(死亡中位)、82.98歳(死亡高位)
[出典:国立社会保障・人口問題研究所(IPSS)『日本の将来推計人口(令和5年推計)』 より]
(※3)就職氷河期:新卒者が困難な就職活動を強いられたため、フリーターや派遣労働といった社会保険の無い非正規雇用(プレカリアート)になる者が増加した。[出典:Wikipediaより]
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