私 KenU は、2014年に直腸がんの手術を受け、高額療養費制度や会社の健康保険組合の付加給付を受けました。幸いにも抗がん剤治療は不要だったため、がん保険の保険金を治療費として使うことはありませんでした。がん保険金を除いても、生命保険の手術一時金+入院給付金もあり、最終的な医療費の収支はプラスでした。
さて、今年2025年8月から、高額療養費の限度額が見直しされます。私のように、1回の手術で治療が終わる場合には、それほど大きな影響はありません。ですが、例えば抗がん剤治療のように継続的に高額な薬剤投与が必要になった場合には、かなりの経済的な負担増が予想されます。
そこで今回、治療の実例をもとに、実際にはどれくらいの負担増になるのかシミュレーションしてみました。自分の負担がどれくらい増えるのかを知っておくことは、今後の生活を考えるうえで役立つかもしれません。
朝日新聞の「くらし」のコラムに「難治がんを生きる」といった特集が組まれました。
そのうち、2025年2月13日の内容では、「子育て中にステージ4[上]」として、ある患者の実例が紹介されていました。

今回は、その実例をもとに、高額療養費制度の自己負担限度額引き上げによる影響をシミュレーションしていきます。
患者の概要
・2018年春、両肺とリンパ節に腺がんが見つかる。
・完治は難しく、継続的な長期投薬が必要と診断される。
・分子標的薬(1錠約2万3千円)を毎日服用する抗がん剤治療が始まる。
・高額療養費制度を利用し、2018年~2019年の支払い額は合計110万円以上。
・経済的な負担の大きさから精神が疲弊し、命を絶つことまで考えた。
世帯年収の推定
この患者の支払い額から、世帯の年収を推定してみます。
現行の高額療養費制度の自己負担限度額から逆算すると、年収370万円~770万円の世帯に該当することがわかります。
病気の発見が2018年の春からということなので、仮に3月から治療を開始し、2019年までの支払い額が110万円以上とすると、他の年収区分に該当する可能性は低いでしょう。
なお、制度の仕組みとして、3回目までは通常の限度額が適用されますが、それ以降は「多数回該当」となり、自己負担の限度額がさらに軽減されます。
上表のシミュレーションでは、年収の中央値(570万円)を基準とし、医療保険金の受け取りがない場合の医療費控除による税金還付を考慮した実際の負担額(表中の「実負担額」)を計算しています。
多数回該当(※)を1年間継続した場合の実負担は、約45万円です。
※)高額の負担がすでに年3か月以上ある場合の4か月目以降(多数該当高額療養費)
高額療養費として払い戻しを受けた月数が1年間(直近12ヵ月間)で3か月以上あったときは、4か月目から自己負担限度額がさらに引き下げられます。
限度額の引き上げの影響
今回の制度見直しでは、年収370万円~770万円の区分は、3つの区分に細分化され、2025年(令和7年)8月から2027年(令和9年)8月にかけて、3段階に分けて限度額が引き上げられます。
この第3段階の引上げ額を、先ほどの患者のケースに当てはめてシミュレーションしました。
令和9年8月以降に適用される新しい限度額で、3つの年収区分ごとに負担増を計算しています(下表)。
表の最右列から2列目「負担増」には、税金還付(中央年収で計算)を考慮した実際の負担増を示しています。そして、表の黄色で塗りつぶした部分は、継続的に長期にわたる高額治療が必要なケースに該当し、制度見直しの問題となる部分です。
表の最右列「負担増割合」には、1年間(12か月)多数回該当での実際の負担増の年収に対する割合を示しています。
年収が上がるほど負担割合も増え、限度額引き上げの影響が大きくなることが分かります。
1年間(12か月)多数回該当の場合、年収370~510万円世帯では、約7万円/年の実負担増、月当たり約6千円の節約が必要です。
年収510~650万円世帯では、約18万円/年の実負担増、月当たり約1.5万円の節約が必要です。
年収650~770万円の世帯では、約23万円/年の実負担増、月当たり約2万円の節約が必要です。
すでに高額な治療費を支払い続けている家庭では、住宅ローンや自動車ローン、子供の学費などの支出が重なる中で、この増額分を捻出するのはたやすいことではないかも知れません。
それでも、生きるために何が必要かをしっかり考え、最適な選択をしていくしかないでしょう。
高額療養費制度の恩恵と見直しの課題
ところで、この患者さんは現在まで6年間生存しています。
これまでの医療費負担を推定すると約300万円ですが、服薬した分子標的薬の値段は約5,000万円(※3割負担として、薬価基準では約1億6,800万円)にもなります。
そのように考えると、高額療養費制度の恩恵は計り知れません。
この制度を維持するために、どのような見直しが最適なのか? どこまでの負担増を許容すべきなのか?
公表される数字やイメージにとらわれず、実質的な議論が必要だと感じます。
補足(標準報酬月額)
本文ではイメージしやすいように、政府案が示す「年収換算」を基に説明しました。
じつは、政府案が示す標準報酬月額の年収換算は大きく的を外れています。
正しくは、年収ではなく、標準報酬月額を基準にして、高額療養費制度の自己負担区分が決まります。
ざっくり単純に言うと、「賞与を含まない3か月分の月収の平均で区分が決まる」というイメージです(厳密にはもう少し細かい決まりがあります)。
つまり、同じ年収でも、賞与の割合によって標準報酬月額が異なるため、高額療養費制度の負担上限額も変わってきます。
以下に、年収370万円・年収650万円の場合で、賞与の割合(何か月分か)による標準報酬月額と負担区分の違いを例示しました。
※表中の限度額の引き上げ額は、当初の政府案に基づいています。

低所得層や働き盛り世代には、寄り添った引上げ額になっているのが分かると思います。

次に、政府案の標準報酬月額を基にして、賞与4か月分(春2か月、冬2か月)を含む年収に換算したグラフを示します。
また、賞与6か月分(春3か月、冬3か月)を含む年収に換算したグラフも示します。
同じ年収600万円でも、賞与の割合で負担額が変わることが分かります。

参考までに、賞与6か月分(春3か月、冬3か月)を含む年収の場合の、政府当初予定案(令和9年8月以降)の多数回該当(※)との比較も示します。
政府案が示す年収換算とは大きな隔たりがあることがわかると思います。

※)高額の負担がすでに年3か月以上ある場合の4か月目以降(多数該当高額療養費)
高額療養費として払い戻しを受けた月数が1年間(直近12ヵ月間)で3か月以上あったときは、4か月目から自己負担限度額がさらに引き下げられます。
生命保険の見直し
結婚や出産を機に、生命保険に加入する人は多いのではないでしょうか。
私も結婚をきっかけに、日本生命(ニッセイ)の終身保険(入院給付金あり)に加入しました。若かったこともあり、保険料は比較的安かったと記憶しています。
その後、子供たちが成長すると、万が一のことを考え、保険金額を増額するために更新手続きを行いました。
さらに、子供たちが巣立つと、高額な死亡保障は不要になったため、保険金を減額し、一部を3大疾病に対応する保険へ切り替えました。
なお、所定のがん・急性心筋梗塞・脳卒中などの3大疾病以外で死亡した場合でも、一時金として死亡保険金を受け取れるタイプの保険(※)を選びました。
(※ 加入時に死亡保障100%型を選択する必要があります。)
私は年齢を重ねてから保障内容を幾度か見直したため、結果的に保険料が高くなってしまい、少し失敗したと感じています。
もし終身型で最初から更新しないタイプを選んでいれば、負担は少なく済んだかもしれません。
また、医療保険は若いうちに加入すると、払込み保険料が低く抑えられるため、そのタイミングでがん保険なども検討すると良いかもしれません。
実際に備えるかどうかはそれぞれの考え方次第ですが、将来の医療リスクを意識することは、今後の生活設計に役立つはずです。
余談(標準報酬月額)
じつは、私ががんの手術を受ける前年に、妻も糞便性イレウスによる大腸穿孔で手術を受けています。術後にICUに入るほどの状態でした。
このときにも、高額療養費制度を利用し、健保の付加給付、生保の手術一時金+入院給付金を受け取り、医療費の収支はプラスでした。
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