水抜き剤が必要な理由の結露は嘘!ガソリンタンクに水は溜まらない

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ガソリンの水抜き剤に関する、ブログや動画があふれています。
みんなが信じている、空気中の水分が結露してガソリンタンク(以下「燃料タンク」という。)の中に水がたまるということ。
本当か? どれくらいの水がたまるのか?
科学的に考察しました。


【注意】以下の内容については、私KenUの個人的な推測及び見解であり、保証するものではありません。誹謗中傷、議論はお控えください。

燃料タンク内の空気量

仮定として、仕様上の満タン給油量が60Lの乗用車とします。
そして、空の燃料タンクにガソリンを満タンまで給油した場合を考えます。

ガソリンを入れていくと、燃料タンクのガス抜き口から空気がタンク外に排出されます。
満タンになると、給油ノズルのオートストップ機構で、自動的に給油が止まります。
それ以上、チョロチョロとガソリンを注ぎ足してはいけないというのは常識なので、そこで給油を終えます。
なので燃料タンクにはいくらかの余裕空間があります。
その空間には、空気がたまっているのでしょうか?

いいえ。
なぜなら、ガソリンは引火点がマイナス40℃でたいへん気化しやすく、ガソリン蒸気(以下「ベーパー」という。)は、比重が3~4で空気よりも重いため、燃料タンクの空間には空気ではなく、給油しながら生じるベーパーがたまります。

ガソリンベーパーが空気中で下降して低いところに滞留

(出典:総務省消防庁、ガソリンの危険性について、参考3-2、※消防庁”当ホームページのコンテンツの利用について”に基づき、資料より画像を切り抜き加工して作成)

満タンになるまで給油しない場合も、タンク内の空間はベーパーで満たされることは容易に想像できます。

結露水発生量シミュレーション

環境規制によって、燃料タンクやキャップからベーパーが漏出しない構造になっており、燃料タンク内圧力はセンサーによって制御されています。

通常、ガソリンタンク内はベーパーによって陽圧になります。
タンク内が負圧になったことを検知すると、ガソリンをエンジンに供給する燃料ポンプの破損を防ぐために、エバポレーティブエミッションコントロールシステム(EVAP)のベントからキャニスターを通じてエアーが導入されます。

EVAPの概要については、次のChatGPTの回答とおりです。

EVAP(Evaporative Emission Control System)は、車両の燃料系統におけるガソリンの揮発蒸発を制御するシステムです。ガソリンは揮発性の成分を含んでおり、燃料タンク内や燃料供給系統で蒸発する可能性があります。EVAPシステムはこの揮発性燃気(ベーパー)をキャプチャし、大気中への放出を防ぐ役割を果たします。

具体的には、燃気制御システムは燃料タンクや燃料キャニスター(吸炭缶)といったコンポーネントを使用します。ガソリンタンク内の圧力や燃気の移動を制御するバルブやソレノイド、キャニスター内の活性炭フィルターなどが含まれます。これにより、燃気はキャニスターに導かれ、エンジンが必要とするときに取り込まれて燃焼されるか、エンジン制御システムによって処理されます。

EVAPシステムの目的は、燃料蒸発による大気への有害物質の放出を削減し、環境への影響を軽減することです。また、車両の診断システムによってEVAPシステムの動作状態を監視し、異常が検出された場合は警告灯を点灯させることで、修理や整備の必要性を通知します。

EVAPシステムは自動車の排気ガス制御システムの一部であり、環境保護や大気汚染削減の観点から重要な役割を果たしています。

引用:質問「evapの概要を簡単に説明してください」に対するChatGPTの回答より

というように、燃料タンクに空気が導入されることがあります。
なので、空気からの結露水発生量を極端な仮定のもとシミュレーションします。
実際には、空気がガソリンタンクに導入されるようなことがあっても、ガソリンタンク内で生じるベーパーとの混合気になってキャニスターに捉えられEVAPで燃焼されます。
でも、とりあえず、ガソリン60Lが全て消費され、ベントから60Lの空気が燃料タンクに導入された場合を仮定します。

60Lの空気中に含むことができる最大の水分量、すなわち飽和水蒸気量はどれくらいなのでしょうか?
Wikipediaの飽和水蒸気量(←参照リンク)から、” August他の式 ” で求めたのが次の表です。

気温(℃)飽和水蒸気量(g/m360L当たりの飽和水蒸気量換算値
(g/60L)
5082.834.97
4051.103.07
3030.371.82
2017.311.04
109.410.56
04.850.29
-102.360.14
-201.070.06
-300.450.03
-400.170.01
-500.060.00

飽和水蒸気量の数値から、夏(気温30℃、湿度80%)の空気60Lが10℃まで冷えた場合に生じる結露水量、冬(気温10℃、湿度60%)の空気60Lが-10℃まで冷えた場合に生じる結露水量を求めたのが次の表です。
※ppmは、parts per millionの頭文字をとったもので、100万分の1の意。1ppm = 0.0001%

結露水量(g/60L)単位容積当たり(ppm)
(気温30℃、湿度80%の水蒸気量)-(10℃の飽和水蒸気量)0.915.0
(気温10℃、湿度60%の水蒸気量)-(-10℃の飽和水蒸気量)0.23.3

ガソリンは疎水性ですが、50ppm~200ppmの水分を含むことができます1)
なので、上表シミュレーションの結露水量は、ガソリンに吸収されるレベルだということがわかります。
よって、通常の環境条件では、水が溜まることはないと考えられます。

さらに、結露しにくい理由として、燃料タンクは鉄製ではなく、軽量化するために樹脂製が採用されていることもあげられます(出典: 八千代工業株式会社 )。
樹脂製燃料タンクは熱伝導率が低いため熱しにくく冷めにくいので、熱伝導率が高くて熱しやすく冷めやすい鉄製燃料タンクよりも、結露しにくいです。

熱伝導率 W/(m・K)出典
80.4Wikipedia
樹脂(HDPE)0.46~0.50サンプラテック
樹脂物性一覧表

参考までに、ガソリンタンクという密閉された空間で、夏(気温30℃、湿度80%)と冬(気温10℃、湿度60%)の空気が結露しはじめる温度(露点温度)を求めたのが次の表です。

水蒸気量(g/60L)単位容積当たり
水蒸気量(ppm)
露点温度(℃)
夏:気温30℃、湿度80%の水蒸気量1.46 24.3約26
冬:気温10℃、湿度60%の水蒸気量0.34 5.7約2

樹脂タンク内の温度が露点まで低下する時間がどれくらいかかるのか?というシミュレーションまではしません。

アルコール添加の影響

以上のことから、結露が原因でガソリンタンクに水がたまることは、ほぼほぼありません。

それなのにガソリンタンクに水抜き剤(成分:イソプロピルアルコール)を入れるとどうなるのでしょうか?

国土交通省 ” 高濃度アルコール含有燃料に関する安全性等調査委員会 ” において、アルコールの影響について検討されています。
その最終評価において、「高濃度アルコール含有燃料に含有される各アルコール成分は、アルミニウムを腐食させる性質を示し、膨潤等のゴム・樹脂の物性低下や燃料ホース抜け圧力低下等のゴム部品の機能低下を引き起こし、ガソリン使用時と比較して燃料耐性等が低下する可能性が示された。」とされています。

200mL程度の水抜き剤添加(60Lに対して0.33%)の影響はかなり小さいと思いますが、良いことはなさそうです。

結論

以上、結露してガソリンタンクに水がたまるとは考えにくいこと、水抜き剤のアルコールが燃料系の部品を劣化させる可能性があることから、「自動車燃料タンクへの水抜き剤の添加は不要」というのがKenUの見解です。


参考文献
1)金子 タカシ(JXTG エネルギー株式会社(現ENEOS))、『知っておきたい自動車用ガソリン』、SOCIETY OF AUTOMOTIVE ENGINEERS OF JAPAN、ENGINE REVIEW Vol. 8 No. 1(2018)

補足(バイクの場合)

バイクの燃料タンクに水がたまったという人がいますが、原因は結露ではなく、雨水や洗車時の水が浸入したのだと思います。
侵入の理由は次のことが考えられます。

・バイクの場合、車と異なり給油口がむき出しになっており、直接真上から雨水がぶつかる構造になっている。
・とくにパッキンが劣化していると、雨天走行中や豪雨の水圧により燃料タンクに水が浸入する可能性がある。
・給油口の周りにある水抜口が詰まると排水されない。水がたまった状態で給油口を開くと燃料タンクに水が入る可能性がある。
・高圧洗浄機でバイクを洗車すると、給油口パッキンが水圧に負けて燃料タンクに水が入る可能性がある。

バイクの給油口は、構造からみてそれほど防水性は高そうではなく、腕時計でいう日常生活用防水程度の防水性しかないかもしれません。
そのため、パッキンの汚れと劣化には気を付けたほうがよさそうです。
給油口は給油毎に何度も開け閉めするわけで、それに伴ってパッキンに砂や塵などの汚れがたまると、水が浸入しやすい隙間ができることになります。

腕時計のパッキンの場合4~5年で劣化するので、バイクの燃料キャップのパッキンも定期的に交換したほうがよいかもしれませんね。

KenUのMT-09はガレージ保管で雨ざらしではなく、大雨のときに乗ることもなく、洗車時も給油口に水圧がかからないように気を付け、給油のときにパッキンの汚れなどないことを確認していました。

補足(ディーゼル車、給湯器の場合)

ディーゼルエンジン車の場合、軽油蒸気は比重が4.5であり、ガソリン蒸気と同様に空気よりも重いのですが、軽油は引火点が45℃以上でありガソリンと違って気化しにくいので、燃料タンクの空間には、軽油ベーパーではなく空気がたまります。
なので、燃料タンク内で空気が結露して水がたまっていくことは考えられます。

しかし、ディーゼル車には水分を除去する燃料フィルターがあり、水抜き剤は不要で、むしろ使用が禁止されています。
水がたまった場合には警告灯が点灯するので、そのときに燃料フィルターの水抜きや、車種によっては燃料フィルターの交換を行うことになります。

灯油の場合も同様に、引火点が40℃以上であり気化しにくいことから、タンク内の空間には空気がたまります。
家庭用の灯油ポリタンクは結露しにくいかもしれませんが、給湯器の屋外用灯油タンクは金属製で結露しやすいので、水がたまっていくことは考えられます。
しかし、屋外用灯油タンクにはドレンバルブがあるので、簡単に水を抜くことができます。


以下、余談です。

現在KenUが所有しているMercedesーBenz GLA 220 4MATIC(X156)は、ハイオクガソリン仕様で満タン給油量は55Lです。
水抜剤を入れるつもりは全くありません。

水抜剤の規格として、” 日本産業規格 JIS K 2395:1994 自動車用燃料の水溶解剤 ” が定められています。
適用範囲には、「この規格は、自動車のガソリンタンク、軽油タンクなどにたまる水分を燃料中に溶解させるために用いる水溶解剤(以下、水抜剤という。)について規定する。」とあります。

また、ガソリンの規格として、” 日本産業規格 JIS K2202:2012 自動車ガソリン ” が定められています。
夏季用と冬季用のガソリンでやや規格値が異なる項目もありますが、ハイオク、レギュラーともにエタノール体積分率は3%以下(※)に規定されています。
 ※アルコール含有燃料使用対策済み車両用の「(E)規格」については、10%以下。

商品名は書きませんが、完全水抜き剤というものが販売されているようです(※1)。
その特許第5933071号(P5933071)をみると、成分は、脂肪酸+グリコール+アルコール+アンモニア水の混合液らしいです。
燃料及び排ガスの通過経路の部品・材質への長期的な影響はどうなのでしょうか?
日本産業規格に適合しているのでしょうか?
 ※1:既に販売終了、会社も消滅しています。

*
水抜き剤とは別の話で、燃料添加剤というのもありますが、KenUは、法定1年点検時にMB純正燃料添加剤の注入を断りました。
でも、やっぱり入れたほうがよかったのかと思いつつ、調べ物をしています。

豊田中央研究所R&Dレビューのデポジット生成に関する論文や、ポリエーテルアミン(PEA)の作用に関する論文などを読みました。
いまのところ、デポジットクリーナーについては、懐疑的です。
というのは、PEAがエンジン内のデポジットに浸潤して溶解しながらも、結局PEAもエンジン内で燃焼分解してデポジットになるっぽいので。

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