一般的にいう「 がん保険」。
ここでいう ” がん ” とは何をさしているのでしょうか?
少し、専門的にお話しします。
がん保険で保険金が支払われるのは、新生物<neoplasm>(同義:腫瘍<tumor>)のうちの悪性新生物<malignant neoplasm>です。
腫瘍=がん、と誤解されている例が結構あるようですが、悪性新生物が、いわゆる ” がん ” です。
「疾病及び関連保健問題の国際統計分類:International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems(以下「ICD」と略)」という、世界保健機関(WHO)が作成した分類があり、日本国内で使用している分類は、ICD-10(2013年版)に準拠し、医学的分類として医療機関における診療録の管理等に活用されています1)。
悪性新生物は、がん性腫瘍とも言われ、一般的には悪性腫瘍とも呼ばれます。
そして、がん< cancer (キャンサー)>は包括的な用語として、悪性新生物のどの群に対しても使用できます2)。
ただし、リンパ組織、造血組織及び関連組織の悪性新生物にはほとんど用いません。
それを踏まえて、大まかな分類を簡単に下図にまとめました。

「がん」はひらがなで書き、カタカナで「ガン」、漢字で「癌」とは書きません。
和語はひらがな、外来語はカタカナを使用することが、文化庁・内閣告示によりルール化されています。
また、「癌」は常用漢字表にありません。
漢字の癌は、癌腫<carcinoma>のことを言い、キャンサーの同義語として使用されることは誤りとされています。
癌腫の場合、例えば、大腸癌腫、肺癌腫、胃癌腫などとせず、大腸がん、肺がん、胃がんというように、用語の語尾で用いる場合は、〇〇がん(癌)とします。
そうしたことから、漢字の癌は癌腫を指すという理屈です。
なので、癌腫に限っては、漢字で大腸癌、肺癌、胃癌などと書くこともできます。
以下、補足です。
ICD-10では、新生物を4つの主要なグループに分類3)しています。



上皮内新生物は、上皮内がん(CIS:carcinoma in situ)と言われることもありますが、著しく異常であるけれども ” がん ” ではない細胞の用語です。
したがって、それらは通常癌腫ではありません。
その一方で、上皮内新生物でも、悪性新生物の場合の1割(10%)の保険金が支払われる「がん保険」があります。
現在、ICDについては、International Classification of Diseases 11th Revision(ICD-11)、ICD-11 for Mortality and Morbidity Statistics (Version:01/2023)が発出されています(https://icd.who.int/en)。
以下、余談です。
色々とインターネットを調べていて、カタカナで「ガン保険」(←誤り)記載している保険会社があったり、がんと癌のカテゴリーの違いをよく理解していない医師のサイトがあったり、まあ、そんなものなのかな、と思いました。
日本国内のサイトを見ていると、結構、がん、ガン、癌、腫瘍、が混同された記載になっていたりして、分かりにくかったです。
その点、海外のサイトを探したほうが、情報量も多く、正確性も高く、neoplasm、tumor、cancer が使い分けられていて、分かりやすかったです。
それから、「『がんは悪性腫瘍の総称,癌は癌腫』の主張には何ら根拠がなく、明らかに間違いである.」と言い張る、読んでみて面白かった論文4)があるので、引用・参考覧にリンクしておきます。
『XX癌』とつく学会とか専門誌とかは、良性も扱うんだから『XX新生物』とかに変えたらいいんじゃないでしょうか?
学会や専門誌の名称変更なんていうのは、例としていくらでもあるんですから。
引用・参考
1)厚生労働省ホームページ 1.「疾病、傷害及び死因の統計分類」とは(https://www.mhlw.go.jp/toukei/sippei/)
2)厚生労働省ホームページ 2.基本分類表及び内容例示表(平成27年2月13日総務省告示第35号。令和3年4月19日総務省告示第159号一部改正)イ.ICD-10(2013年版)準拠 内容例示表第Ⅱ章 新生物<腫瘍>(C00-D48) Chapter II Neoplasms
3)ICD-10 Version:2010, Chapter II Neoplasms, C00-C97 Malignant neoplasms
4)藤田浄秀, 逗子病院 内科, がんと癌とで意味が異なるか―医学用語の混乱を憂える― , 横浜医学, 72, 4757(2021)