COVID-19、コロナ禍の影響により、体温計は、どこの薬局、薬店でも在庫切れの状況が続いています。
Amazon、楽天などネット通販では、テルモ、オムロン、タニタ、シチズンなど国内メーカー電子体温計が通常価格の何倍もする高額な値段で販売されています。
そのような中、輸入品の電子体温計が比較的安い価格で販売されています。
しかし、電子体温計はクラスⅡの管理医療機器に分類され、国内未承認製品の販売はできません。
今回は、未承認の輸入電子体温計がどのようなものか紹介し、さらに国内メーカー承認品との性能比較をしてみました。
最後にすこし、電子体温計の輸入・販売に関する法的なことを書きます。
今回紹介する電子体温計は、中華人民共和国 広東省 肇慶市に所在する会社GENIAL(ジェニアル)のデジタルサーモメータ T15SCです。
送料込み600円以下で輸入できます。

検温部位は、Oral Use と Axillary Use、つまり、口腔(舌下)と腋窩(えきか:わきの下)。
検温時間は、予測式で1分前後。
精度±0.1℃、検温終了時アラーム、水銀フリー、自動電源オフ、柔軟な先端が特徴。
LR41電池交換も可能。






ポーランドの欧州代理人を指定して、医療機器CEマーキング認証は取得されています。
ヨーロッパで販売されている製品のようです。
しかし、日本の医療機器承認番号の記載はなく、国内未承認です。



GENIAL T15SCの作りは悪くなく、国内メーカー品と比べて全く遜色ありません。
気になるところは、測定結果が正しく出るかどうか。
そこで、テルモ製の電子体温計2器種(C203、C21)と検温し比べてみました。



比較の仕方は、体温計2本を左右両わきの下にそれぞれ同時に差込み測定します。
次に体温計とわきの下の左右の組合せを変えて測定を繰り返し(表1)、平均値と標準偏差を求めました。



5/28の夜と5/29の朝の2回実験を行いました。
その結果、平均値は、C203>C21>T15SCの順に高くなりました(表2、表3)。
T15SCはC203よりも0.7℃低い値でした。
C21はC203と同じメーカーにもかかわらず、測定値に差が認められました。






各体温計の測定値に差異が生じた理由を考察しました。
C21はかなり古い製品で、液晶表示は薄くなり、電池はかなり消耗しています。
このことがC203と測定値が異なる原因かも知れません。
また、T15SCの取扱い説明書には、備考に「わきの下の温度は一般に口中よりも0.5℃低い」との記載があります。
よって、T15SCは口中(舌下)での検温により正しい測定結果が得られるのではないかと考えました。
そこで、5/29夕に、T15SCでの検温部位を口中(舌下)に変えて、再度比較実験をしました。
今度は3か所(口中、右わきの下、左わきの下)で、体温計3本同時に測定しました。
その結果、推測どおり T15SC と C203 とで同じ測定値が得られました(表4)。



GENIAL T15SCでは、検温部位が舌下の場合に精度・再現性よく正しく測定できることがわかり、KenUのわきの下で検温する場合には、測定値プラス0.7℃すればよいということがわかりました。
ちなみに、わきの下での検温は、体温計本体を斜め下から上に向けてわきの下に差し込むのが正しい方法とのことです。
参考:テルモ体温研究所 体温ってなあに?正しい体温の測り方



さて、薬機法(旧・薬事法)(※1) では、人体に与えるリスクの程度によって、医療機器を高度管理医療機器(クラス1)、管理医療機器(クラス 2)、一般医療機器(クラス3、クラス4)に分類しています。
そのうち、電子体温計は管理医療機器(クラス2)に該当します。
そして、電子体温計を製造販売する場合には、認証基準があるので厚生労働大臣の登録を受けた者(「登録認証機関」)の認証(「第三者認証」)を受ける必要があります。



未承認の医療機器を海外から輸入する場合には、「薬監証明」(厚生労働省確認済み輸入報告書)の取得が必要になります。
ただし、例外もあり、未承認の家庭用電子体温計は、販売や譲渡を目的とせず個人にのみ使用する場合に限り、1個だけの輸入なら税関での確認だけで輸入できます。
A18 前略・・・ただし、個人輸入で一定の数量以下の場合等、薬監証明の交付を受けずに、税関限りの確認で輸入をすることができる場合があります(「医薬品等及び毒劇物輸入監視協力方依頼について」(平成26 年11 月17 日付け薬食発1117 第16号厚生労働省医薬食品局長通知)参照)。
事務連絡
平成26年12月26日
各都道府県衛生主管部(局)薬務主管課 御中
厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課
医薬品等輸入手続質疑応答集(Q&A)について
なお、未承認の電子体温計を輸入したけど不要になったからといって、譲渡や販売をしてはいけません。
また、海外旅行をして人へのお土産として国内に持ち込むこともできません。
では、承認済の管理医療機器はどうでしょうか?
管理医療機器を販売する場合は、届け出をして管理医療機器販売業の許可取得が必要です。
ですが、管理医療機器のうち、電子体温計、女性向け避妊用コンドーム及び男性向け避妊用コンドームについては、届出の必要はありません。
前略・・・薬事法及び採血及び供血あつせん業取締法の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整備に関する政令附則第八条の規定により厚生労働大臣の指定する管理医療機器は、次に掲げるもの(専ら動物のために使用されることが目的とされているものを除く。)とする。
薬事法及び採血及び供血あつせん業取締法の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整備に関する政令附則第八条の規定により厚生労働大臣の指定する管理医療機器
一 電子体温計
二 女性向け避妊用コンドーム
三 男性向け避妊用コンドーム
平成17年3月18日付厚生労働省告示第82号
よって、国内既承認電子体温計については譲渡やメルカリでの販売が可能になります。
※1)薬機法は、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」の略で、「医薬品医療機器等法」ともいいます。
以上、電子体温計の輸入品とその性能、法的内容について紹介しました。
なお、法令については、今後改正されて内容が変わることもあるので注意が必要です。
本記事の法的内容は現時点のものなので、その時々で最新の法令をご確認ください。