猫にひっかかれたり、咬まれたりして出血したときは、まず流水でよく洗い流し、次に消毒し、早めに病院を受診するのが最善です。
とはいえ、休日だったり仕事が忙しかったりすると、すぐに病院へ行けないこともありますよね。
そこで今回は、応急処置用の市販薬は「テラマイシン軟膏a」一択である理由を、私KenUが医薬品の添付文書や文献に基づき解説します。
目次
1. はじめに
我が家のえるちゃん(アメリカンショートヘア、雌)は、可愛いんですけど、ときとして狂暴になって飼い主に爪を立てることがあります。
たとえば、地震速報の警報音でパニックになったときや、何かを訴えるようにじゃれてくるときなど(下動画)。
そのとき、爪切りができずに爪先が尖ったままだと、皮膚に刺さって出血することもあります。
そして、ひどい掻傷を負ったときに病院で処方されたのが、ゲンタマイシン硫酸塩軟膏0.1%「イワキ」。
ですが……使用期限が切れてしまいました。
この軟膏は処方箋が必要な薬なので、ドラッグストアでは市販されていません。
でも、万が一のときのために常備しておきたい薬なので、代わりの市販薬を探しました。
2. ゲンタマイシンの作用機序
まずはゲンタマイシンの作用機序を確認します。
病院で処方されたゲンタマイシンは殺菌性の抗生物質で、グラム陰性桿菌による感染症にほぼ専門的に用いられます。
作用機序は、細菌のリボソーム30Sサブユニット(タンパク質を作る細胞内小器官)に結合し、mRNA(メッセンジャーRNA)の読み取りエラーを引き起こして、タンパク質合成を阻害します。
出典:Wikipedia 「ゲンタマイシン」
よって、上記のとおりグラム陰性桿菌に対して効果がある市販薬を選びます。
3. 猫の咬・掻傷による創傷感染
猫にひっかかれたり、噛まれたりした際に、人に感染する可能性のある原因菌として、バルトネラ菌とパスツレラ菌が存在します。
バルトネラ菌は、グラム陰性桿菌で「猫ひっかき病」の原因菌として知られています。
猫はノミを介してこの菌を保有します。
なので、完全室内飼育であれば、野良猫やノミとの接触機会がほぼないので、保有率は低くなります。
パスツレラ菌は、グラム陰性短桿菌で、「パスツレラ症」の原因菌として知られています。
猫の口腔には、この菌をほぼ100%保有しています。
猫はグルーミングをしますから、菌は爪や体表面にも常在します。
したがって、バルトネラ菌とパスツレラ菌に有効な市販薬を選びます。
4. 3種類の市販品の軟膏の比較
市販の抗生物質入り軟膏剤の選択肢としては、テラマイシン軟膏aとドルマイシン軟膏とクロマイ-N軟膏の3つが考えられます。
しかし、クロマイ-N軟膏についてはブログ末に記載のとおり比較するまでもなく除外です。
よって、テラマイシン軟膏aとドルマイシン軟膏について、成分と作用機序を比較します。
| 製品名 | テラマイシン軟膏a | テラマイシン軟膏a | ドルマイシン軟膏 | ドルマイシン軟膏 |
| 配合成分 | ポリミキシンB | オキシテトラサイクリン塩酸塩 | コリスチン(ポリミキシンE) | バシトラシン |
| 含量(1グラム中) | 10,000U | 30mg | 50,000U | 250U |
| 抗菌スペクトル | グラム陰性桿菌 | グラム陽性菌・陰性菌 | グラム陰性桿菌 | 主にグラム陽性菌 |
| バルトネラ菌 | × | 〇 | × | × |
| パスツレラ菌 | 〇 | 〇 | 〇 | × |
| 作用機序 | 細胞膜破壊型 | 蛋白質合成阻害型 | 細胞膜破壊型 | 細胞壁合成阻害型 |
テラマイシン軟膏aは、グラム陰性桿菌に効果のあるポリミキシンB硫酸塩とグラム陽性菌及び陰性菌などに広い抗菌力を示すオキシテトラサイクリン塩酸塩の2つの抗生物質を配合しています。
つまり、細胞膜破壊型(ポリミキシンB)とタンパク質合成阻害型(オキシテトラサイクリン)という2つの異なる作用機序により、グラム陰性菌に対して相乗効果が期待できます。
とくにポリミキシンBはパスツレラ菌に有効で、さらにテトラサイクリン系と併用するとより効果的になることがMSDマニュアル獣医学版(2025年改訂)に示されています。
さらに、テトラサイクリン系は、バルトネラ菌に対して急性期に有効とされ、パスツレラ菌に対しても in vitro では有効とする報告が多くあります。
ドルマイシン軟膏は、グラム陰性菌に効果のあるコリスチンと大部分のグラム陽性菌及び陰性菌の一部に抗菌力を示すバシトラシンの2つの抗生物質を配合しています。
しかし、バルトネラ菌に対して有効性を示す成分を含まない、ドルマイシン軟膏は選択肢から外れます。
したがって、選択肢としてはテラマイシン軟膏a一択になります。
ただし、テトラサイクリン系はゲンタマイシンと同様に耐性菌出現のリスクがあり長期使用には注意が必要です。


5. KenU自身の猫にひっかかれた・咬まれた時の対処法
浅い傷の場合で、通院できないときの私の対処法は次のとおりです。
- すぐに水道水(流水)で流しながら(最低30秒〜1分)、少し血を絞りだす(ドレナージ)
- ティッシュペーパーで拭き取る
- あれば、消毒用エタノール(IPAを含まないもの)を噴霧し消毒(かなりしみて痛い)(※アルコール刺激に敏感な人は禁忌)
※出典:MSDマニュアル獣医学版(2025年改訂) /PROFESSIONAL VERSION「Alcohols as Antiseptics and Disinfectants for Use With Animals」 - 再度、水道水で洗い流して、ティッシュペーパーで拭き取る
- 抗生物質製剤(軟膏)を傷に塗布して様子をみる
※腫れがひどく悪化するようであれば病院を受診 - その後の消毒は傷の治りを遅くするのでやってはダメ。傷を毎日(3日間くらい)水道水でよく洗い流して軟膏を塗布すればOK。
【注意】上記3項は動物咬傷・ひっかき傷に対する私の場合。一般的にはしないし通常の創傷にも不要。
ネットでは、傷口を洗い流す際に石鹸の使用を勧めているサイトもありますが、私は石鹸を使わないようにしています。
石けんといっても、その種類はいろいろあります。
弱アルカリ性のもの、弱酸性のもの、薬用で殺菌成分(イソプロピルメチルフェノール)が入っているものなど。
“創傷の洗浄”に使用して無害な石鹸がどれなのかは具体的に明確にされていません。
また、界面活性剤により、組織が刺激されて炎症性サイトカインの放出が増加し、炎症を誘発することが知られていますし、異物が血中に入り込む可能性も考えられます。
なので、水道水でやさしく洗い流すだけのほうが適切です。

6. 最後に
これまでは、処方されたゲンタマイシンの塗布で、さらに通院が必要なることはなかったです。
ただし、ゲンタマイシンには耐性菌出現のリスクがあるため、長期の使用は避けるようにしていました。
さて、今後、テラマイシン軟膏aを使う状況は生じるのでしょうか?
もちろん、市販薬はあくまで応急処置に過ぎません。
傷が深かったり、腫れや赤みが強くなる・発熱が出るといった症状があれば、医療機関の受診が必要です。
ネットではドルマイシン軟膏を勧めるサイトが多いようですが、テラマイシン軟膏aのほうが猫特有の感染菌に対して抗菌スペクトルを有する成分構成と作用機序から有効と考えられます。
その他、クロマイ-N軟膏(抗菌成分:クロラムフェニコール+フラジオマイシン+ナイスタチン)を紹介しているサイトも一部ありますが、次のとおり選択肢からはずれます。
クロマイ-N軟膏のパスツレラ菌及びバルトネラ菌に対する効果
- クロラムフェニコール:
in vitro ではバルトネラ菌、パスツレラ菌のどちらにも感受性あり。ただし臨床では重篤な副作用・耐性の問題から使用されない。 - フラジオマイシン:
一部の in vitro 研究ではバルトネラ菌およびパスツレラ菌に対する潜在的な活性が示唆されているものの、有効性に関する臨床試験の証拠は乏しく使用されない。 - ナイスタチン:
抗真菌剤であり、細菌には無効。
ちなみに、薬王堂にはテラマイシン軟膏aも、ドルマイシン軟膏も、クロマイ-N軟膏も、取り扱いはありませんでした。
なので、カワチ薬品で購入してきました。
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7. 筆者プロフィール
KenU (ケンユー)
◆業務経歴
プライム市場上場、高機能材料をはじめとする研究開発型の総合材料メーカーに入社。
研究開発 (R&D) 業務:医薬品、医療材料・関連製品、機能性食品、バイオテクノロジー関連製品などの開発に携わる。
品質保証業務:医薬品・医療機器分野で、GMP責任者として品質保証システム構築やPMDA (独立行政法人 医薬品医療機器総合機構) の査察対応などを経験。
◆現在の状況
2022年10月末に会社を定年退職し、現在無職。
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