以前、”人工肛門の人は重い物を持ったり腹筋運動してはいけないの?”(←参照リンク)と ” 腹筋運動では腹圧は上昇しない!という論文 ”(←参照リンク)という記事を書きました。
今回は、腹腔内圧(IAP)の上昇に関する、海外の研究論文を紹介します。
ストーマ傍ヘルニアの患者、ストーマが脱出しやすい患者に対して、「腹圧をかけすぎないように注意しましょう!」「重たい物を持上げないようにしましょう!」と漠然かつ曖昧に指導されているかも知れません。
インターネット上では、そのように書かれているサイトをよく見かけます。
といったことから、「腹圧はどうしたらかかるの?」、「重たいものって何キログラムなの?」といった疑問を持ったことはありませんか?
今回紹介する論文では、いろいろな姿勢で、いろいろな重さを持ち上げたときに、腹腔内圧(以下「腹圧」という。)がどのように変化するか、実験しています。
論文 1) のタイトルは『Intraabdominal pressure changes associated with lifting : implications for postoperative activity restrictions』で、和訳すると、『持上げに伴う腹腔内圧の変化:術後の活動制限への影響』です。
以下、簡単に論文の概要を説明していきます。
なぜこの研究が行われたのか?
・腹圧の上昇は、骨盤底機能障害の潜在的な原因として示唆されている
・腹圧を下げる術後指導が重要であると認識されているが、術後指導は経験的で一貫性がなく、改善につながるかどうかは不明
・外科医の学歴、経験、または「常識」に基づいているだけで、ガイダンスを提供するために利用できる科学的証拠はほとんどない
なので、腹圧生成の理解を広げることを目的とした、と述べています。
実験には25〜65歳の41人の女性が参加。
5種類(0kg、2.5kg、5kg、10kg、15kg)のおもりを用意し、次の4パターンの動作(A、B、C、D)でおもりを持ち上げ、腹圧を測定しています。
A(スクワット): しゃがんだ姿勢で、床の上の重りを持上げる
B(スクワットアシスト): カウンターに片手をついて、Aと同じように持上げる
C(カウンター): 立った姿勢でカウンターの上の重りを持ち上げる
D(レシーブ): 他の人から立った姿勢で重りを受け取る
結果を次のように述べています。
重さなしのスクワット動作(A)では、カウンターから10 kgを持ち上げたり(C)、15kgを受け取ったり(D)するよりも、多くの腹圧が生じた。
手の補助がある場合とない場合のスクワット位置からの持ち上げの間に腹圧生成の違いは示されなかったので、スクワットアシスト動作を積極的にするように助言することはなくなった。
骨盤底の筋肉組織、神経、または結合組織に対する腹腔内圧の増加の生理学的影響についてコメントすることはできない。
術後の活動制限に関して患者にカウンセリングを行う際には、持上げ動作と重さの両方を考慮する必要がある。
ただし、これが手術の結果に影響を与える可能性があるかどうかは現時点では不明。
と結論づけられています。
以上、持上げ動作と重さを変えたときの腹圧増加の変化に関する論文を紹介しました。
重い物を持たなくても、しゃがんでから立つだけで、腹圧が45cmH2O増加するという結果は興味深かったです。
この圧力を換算すると、0.045kgf/cm2 → 45gf/cm2 → 0.044気圧になり、風呂の底の水圧と同じくらいです。
ちなみに、通常の腹圧は、5mmHg(6.8cmH2O)~7mmHg(9.5cmH2O)、病的肥満患者の腹圧は9mmHg(12.2cmH2O)~14mmHg(19.0cmH2O)といわれています 2)。
なので、肥満には十分に気を付けましょう。
上記論文の実験結果からの私KenUの意見としては、普段から立ったりしゃがんだりしてストーマ脱出などないのに、病院で重いものを持たないように言われているからスーパーに買い物に行けないと考えているオストメイトがいることに、疑問を持ちました。
スーパーのカートを使って買い物をして、荷物をカウンターでエコバッグに詰めて持ち上げれば、腹圧増加は少ないということになる結果が得られているにもかかわらず・・・。
参考文献
1) Kimberly A. Gerten, Holly E. Richter, Thomas L. Wheeler, David T. Redden, R. Edward Varner, Michael Hibner,
RESEARCH UROGYNECOLOGY VOLUME 198, ISSUE 3, P306.E1-306.E5, MARCH 01, 2008
Intraabdominal pressure changes associated with lifting、implications for postoperative activity restrictions
2) B.L.De Keulenaer, J.J.De Waele, B.Powell, M.L.N.G.Malbrain,
Intensive Care Medicine volume 35, pages969–976 (2009)
What is normal intra-abdominal pressure and how is it affected by positioning, body mass and positive end-expiratory pressure?