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KenUは、毎年健康診断で便潜血検査を受けていましたが、ずっと陰性(異常なし)でした。
しかし、痔の手術中に、医師によって目視で直腸がんが発見されました。
大腸カメラではなく、肉眼で、です(笑
ということで、「簡便に精度よく、確実に早期の大腸がんを発見できる検査方法があればいいのにな」と思い、便潜血検査方法とそのメカニズムについて記事にしたいと思います。
一応、中学生でも理解できるくらいのつもりで、なるべく専門的な用語には説明を加えながら、できるだけ簡単に書いてみます。
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便潜血検査とは、読んで字の如く、「便」の中に「潜」んでいる「血液」があるかどうかを「検査」します。
もしも大腸に「がん」とか「ポリープ」ができていると、それらから出血する場合があり、うんちに血が付きます。
なので、うんちに血がついているかどうか調べることによって、大腸にがんやポリープが出来ている可能性を探ろう、というわけです。
でも、がんやポリープがあっても出血しなければ、結果は「陰性(セーフ)」になるし、結果が「陽性(アウト)」でも、必ずしも大腸にがんやポリープができているとは限らない、という微妙な検査です。
痔で肛門から出血があれば、うんちに血が付くので、がんでなくても結果は陽性になります。
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血液があるかどうかは、血液の中にある「ヘモグロビン(Hb)」というタンパク質を「免疫学的」に検出して調べます。
免疫学的というのは、「抗原抗体反応」のことで、検査は、その原理を応用した検査薬を使用します。
検査薬は、人間のヘモグロビンとだけ反応する抗体が使われるので、動物(牛、鶏、魚など)の血液に由来するヘモグロビンには反応しません。
このことを「特異性」といいます。
つまり、検査前の食事にすっぽんの血を飲もうが、血のしたたるような牛レアステーキを食べようが、焼き鳥レバーを食べようが、検査結果には影響しません。
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検査薬の一番重要な原料である、人間のヘモグロビンとだけ反応する抗体は、どのようにしてつくるのでしょうか?
抗体には、大きく二つ、「モノクローナル抗体」と「ポリクローナル抗体」があります。
ポリクローナル抗体は、ウサギ、ヤギ、ヒツジなどの動物にY字型をしたIgG(アイジージー、免疫グロブリンG)という抗体を作ってもらいます。
出典:ウィキペディアフリー百科事典
例えば、「精製したヒトヘモグロビン」と免疫応答を増強させる「アジュバント」という物質の混合物をひつじさんに注射します。



ひつじさんにとって人間のヘモグロビンは異物ですから、免疫が働いて抗体をつくります。
飼育しながら、抗体価が上昇するまで何度か注射(追加免疫)をすると、ひつじさんの血液中にIgGができます。
ひつじさんから血液を採取して、アフィニティークロマトグラフィーという方法でIgGを精製します。
このようにして作ったIgGは、「人間(ヒト)」の「ヘモグロビン(Hb)」に「抗う(あがらう・立ち向かう)」抗体なので、「抗ヒトHb抗体」といいます。
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免疫学的便潜血検査薬の検査方法には、「ラテックス凝集法」と「免疫クロマトグラフィー法(イムノクロマト法)」があります。
まずはじめに、ラテックス凝集法での便潜血検査について解説します。
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ラテックスとは水中にポリマーの微粒子が安定に分散したエマルション(乳液)のことをいいます。
牛乳もエマルションの一つです。
ラテックス凝集法では、ソープフリー乳化重合という方法でスチレンモノマーとスチレンスルホン酸ナトリウムとアクリル酸モノマーを共重合させて作ったポリマー粒子に、抗体をくっつけたエマルションを使います。
粒子は、「単分散」という粒の大きさがそろっているもので、粒の大きさはナノサイズ(100~200ナノメートル)です。
共重合したスチレンスルホン酸のSO3-が、粒子同士を反発させて凝集するのを防いで、安定に分散させる役割をします。
アクリル酸のCOO-には、水溶性カルボジイミド(WSC)という試薬を使って、抗体を下図のようにくっつけます。



これを、「抗体固定化ラテックス」といいます。
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さて、便潜血の検査では、排便直後の新鮮なうんちを「採便棒」にこすり取って、「便溶解液」という液体が入った「採便容器」の中に差し込み、うんちを溶かします。



便溶解液は、ヘモグロビンが壊れにくい緩衝液でできています。
また、便をたくさん採れば正しい検査ができるというわけではないので、採便棒には溝(みぞ)があり、擦切られて溝に残った一定量の便だけが採便容器の中に入る構造になっています。
このようにして採取した便を検査機関に提出します。
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検査機関では、自動検査装置で便中のヘモグロビンが測定されます。
仕組みは簡単。
「便溶解液」と「抗体固定化ラテックス」が混合され、便溶解液にヒトヘモグロビンが含まれていると(下図A)、「ラッテックス」に固定化された抗体がヒトヘモグロビンに結合して、粒子が「凝集」します(下図B)。






粒子が凝集せずによく分散しているときは、光がよく散乱して光の透過量が少なくなるのに対して、粒子が凝集すると光の散乱が減少して光の透過量が多くなるので、光学的に便中のヘモグロビンの量を測定することができます。
というわけで、このようなメカニズムの検査法を「ラテックス凝集法」といいます。
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つぎに、イムノクロマト法での便潜血検査について解説します。
測定原理は、市販されている「妊娠検査薬」や「インフルエンザ検査薬」と基本的には同じです。
イムノクロマト法は、「モノクローナル抗体」を「金コロイド」という数十ナノメートルの大きさの金の微粒子に結合して使用します。ここでは、何故か結合することを「固定化」と言わず「標識」といいます。
抗体の標識は、静電相互作用と疎水性相互作用で受動吸着するので、抗体溶液と金コロイド分散液を混ぜるだけです。 WSCのような反応性のある試薬は使いません。
そのようにして作った「金コロイド標識抗ヒトHbモノクローナル抗体」分散液は、「ガラス繊維フィルター」の中に乾燥します。
その他に、「ニトロセルロースメンブレン」という、ろ紙みたいな、多孔質になっている膜を使用します。
ニトロセルロースメンブレンには、「抗ヒトHbモノクローナル抗体」を一本の線状に固定化します。これを「試験片」といいます。
抗体の固定化は、ファンデルワールス力で吸着するので、抗体溶液をライン状に塗布して乾かすだけです。
では、検査の原理を図で解説します。



(1)便溶解液を試験片端部に接触させているガラス繊維フィルターに2滴ほど滴下します。
(2)すると、ガラス繊維フィルター中の金コロイドが分散して、試験片の中を濡れながら広がっていきます。このことを「展開」といいます。そして、便溶解液中にヘモグロビン(Hb)があると、金コロイドに標識化された抗体につかまり展開していきます。
(3)展開が進むと、試験片に固定化された抗体も金コロイドにつかまっているヘモグロビン(Hb)をつかまえます。
(4)さらに展開が進んで、試験片の抗体塗布線上に金コロイドが凝集し、赤紫色のラインとして目で見えるようになって、ヘモグロビンの有る無しを判定できるというわけです。ヘモグロビン(Hb)を捕まえていない金コロイドは試験片の末端まで通り過ぎていきます。
ちなみに、「金コロイドの抗体」と「試験片の抗体」とで抗原(検査目的物質)を「挟んで検出」することから、サンドイッチ法と呼ばれます。
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検出精度を向上するために、人の血液にある成分でヘモグロビン(Hb)よりも便中の微生物に分解されにくい、トランスフェリン(Tf)というタンパク質を検出する便潜血検査薬もあります。
それでもいまのところ、大腸内視鏡検査が確実に大腸がんを発見できる手段です。
特許的には、大腸がん細胞特有の粘膜タンパク質を検出する免疫学的検査方法が開示されていますが、単なるアイデア特許で実用化はされていないのかな?
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ということで、これから研究者を目指す中学生のみなさん、画期的ながん検査薬を開発してください。
説明難しかった?(笑
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