10気圧防水(W.R.100m または10bar)腕時計でお風呂はダメ?その根拠本当?

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さて、 ” 10Bar,10気圧防水(Water Resistant 100m)時計で水泳できる? “という記事を以前に書いたので、今回は、10気圧防水以上の防水腕時計をつけたままお風呂に入っても大丈夫なのか?について考えてみました。

それというのも、ネット上でその様な質問に対して「大丈夫」派と「ダメ」派の回答が存在する事と、またその回答の根拠が不明だったり、いいかげんだったり、非科学的だったり、感覚的だけであったり、疑問のあるものが多数を占めていると感じたからです。

それで、面白そうだったので私KenUが理由や根拠をきちんと調べてみました。
その結果から、個人的な見解を示してみたいと思います。

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目 次

ダメ派理由
・その1「お風呂の熱で時計の防水パッキンが劣化して防水性能が低下する?」
・その2「お風呂の熱で防水パッキンやステンレスが膨張して防水機能が失われる?」
・その3「お風呂場には水蒸気が充満していて、水蒸気が浸入してしまう?」
・その4「お風呂の熱で内部の時計用機械油が揮発、拡散する?」
・その5「シャワーの圧力が高くて、10気圧防水では耐えられない?」
・その6「お風呂から上がって時計が急激に冷えた場合に結露が生じるから?」
・その7「風呂から上がって冷えた時に腕時計内部の空気が収縮して水蒸気を吸い込む?」
・その8「お風呂の温度(40℃前後)で時計が壊れる?」

本当のダメな理由
・その9「せっけんやシャンプーが防水性能を低下させる?」

大丈夫派理由
・そのイ「体温が37℃、風呂が40℃で、3℃しか違わないから大丈夫?」

・その他「温泉は?サウナは?」
・最後に・・・

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まずは、ネット上でダメと言われている理由について検証します。
ここでは前提条件として、普段の腕時計の平均的温度を 25℃、お風呂に入れたときの温度を 40℃ とします。

※腕時計使用時の年平均温度は24℃という論文もあります。→ 橋本行弘(第二精工舎);使用時の腕時計温度について、日本時計学会誌 (27), 24-33, 1963-09-15

※平均お風呂設定41℃(実温はそれより低いと予想される)→ ニッポンのお風呂事情調査結果、株式会社ウェザーニューズ提供

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その1「お風呂の熱で時計の防水パッキンが劣化して防水性能が低下する?」

腕時計の防水パッキン(Oリング:オーリング)にはゴムやプラスティックが使用されていて、それらはいわゆる化学物質です。

ゴムの耐熱性は、”耐熱限界温度”と物性を損なわずに連続使用が可能な”耐熱安全温度”の2つに分けて考えられます。
そして、例えばNBRゴムの耐熱限界温度は120℃、耐熱安全温度は、80~100℃であり、お風呂の40℃前後での使用では全く問題ありません。

劣化についてはアレニウス式で予測するのが一般的です。
[アレニウス式:k=Aexp{E/RT} k:反応速度定数 A:頻度因子 E:活性化エネルギー R:気体定数 T:温度]

例えば医薬品の場合の25℃ 3年の有効期間は、40℃ 6ヶ月の加速試験にて予測します。
製剤機械技術学会 Q&Aコーナー→ http://www.seikiken.or.jp/faq/faq02.html#2.9

なので、腕時計をしたまま1年間(365日)毎日30分間40℃のお風呂につかったとすると、1年のうちに183時間(約8日間)だけ加速試験を行ったのと同じということになります。
とすると、防水パッキンの寿命が5年間と仮定した場合、
(365*5-(183*5/24*36/6-183*5/24))/365=約4年半
に縮まる計算になります。

これくらいの劣化なら、電池交換時にパッキン交換や定期メンテナンスに出すから問題ない、だからお風呂に入れる、と考える人もいるかも知れません。

↓こういった文献もあります。
空気駆動シリンダーのシール用NBR製Oリング寿命評価手法の検討

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それから、防水パッキンには、撥水性、耐水性、耐汗性を向上させたり、ズレ防止のための潤滑性を付与するために、シリコングリースが塗布してあります。

では、シリコングリースのお風呂による特性変化はどうなのか?

シリコンは通常の条件下では化学的に極めて安定かつ不活性であり、金属を腐食させたり、ゴム・プラスチック類と反応しませ ん。
また、極性の小さい物質であり、水やお風呂のお湯に溶けたりしません。
耐寒・耐熱性は-40℃~150℃であり、揮発性、粘度変化もお風呂の40℃程度の熱では全く問題ありません。
SEIKOパッキン用シリコングリースTSF451:モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社 テクニカルパンフレット(PDF)

←Amazonで見てみる。

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その2「お風呂の熱で防水パッキンやステンレスが膨張して防水機能が失われる?」

物体の長さは温度上昇と元の長さに比例した量で伸び縮みし、
ΔL=αLΔT(ΔL:伸び、L:長さ、ΔT:温度上昇、α:線膨張率)
という関係にあり、温度の上昇に対応して長さが変化する割合を線膨張率(線膨張係数)と言います。

防水パッキンの材質の一つであるNBRゴムの線膨張係数が2.4×10^-4/℃なので、室温25℃から40℃のお風呂に入れて15℃温度が上昇すると、
0.00024×15×100=0.36%膨張し、パッキンが40mmとすると140μm伸びる計算になります。
各種ゴム定数表より

高級腕時計等に使用されているステンレス(SUS316L)の線膨張係数は16.0×10^-6/℃なので、15℃温度が上昇すると、
0.000016×15×100=0.024%膨張し、時計が40mmとすると約10μm伸びる計算になります。
スレンレス協会より

そうすると、ステンレスよりもパッキンのほうが伸び率が大きいので、お風呂に入って温度上昇した時には、よりパッキンがきつく締まる方向に働くので、逆にお湯は入りにくくなると考えられます。

また、時計内部の空気膨張による時計内部の圧力上昇を考えてみます。
25℃(絶対温度298℃)で時計内部の圧力が1気圧のときに、お風呂で40℃(絶対温度313℃)に温まった時の内部圧力は、
1×(298+15)÷298=1.05気圧
となり、それほど防水パッキンにかかる負荷は増加しません。

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その3「お風呂場には水蒸気が充満していて、水蒸気が浸入してしまう?」

水蒸気とは水が気化したものであり、無色で目に見えません。
お風呂場に充満しているのは、水蒸気がより温度の低い場で冷えて凝結して水滴となったために白く見えるもので、湯気(ゆげ)という水滴の小粒です。
Wikipedia水蒸気より

また、もし常圧の水蒸気が侵入するのであれば、お風呂に入れなくとも湿度の高い梅雨の季節に腕時計を使用しているだけで時計内部に水蒸気が侵入して結露して文字盤が曇ってしまうことになると考えられます。

それから、お風呂の湯気がダメならば、霧の中もダメということになり、霧で有名なロンドンでは腕時計を使用できないということになってしまいます(笑。

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その4「お風呂の熱で内部の時計用機械油が揮発、拡散する?」

アクリルアリルオキシジブチレングリコ-ルの合成油が使用されており揮発も拡散もしません。
メービス時計油より

使用温度範囲は、シントAルーベで-29℃~70℃となっており、お風呂の温度40℃は全く問題ないようです。

ちなみに、アレニウス式より毎日30分間(183時間/年)40℃のお風呂に浸かることによる時計油の劣化を計算してみます。
時計油の寿命が10年とすると、
(365*10-(183*10/24*36/6-183*10/24))/365=約9年
に縮まる計算になります。

これくらいの劣化なら、オーバーホールを1年早めにすれば済むだけでしょ?だからお風呂に入れる、と考える人もいるかも知れません。

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その5「シャワーの圧力が高くて、10気圧防水では耐えられない?」

給湯器の静圧(蛇口が閉まっている時の圧力)は300kPa(3気圧)もあれば充分に快適なシャワー流量が得られる。
ダイキンエコキュートより

動圧(水が流れている圧力)は静圧よりも低いので、 蛇口全開や高圧シャワーノズルでない限り、普通にシャワーしている分にはそれほど圧力は高くないということになります。

しかしシャワーは避けたほうが良いでしょうね。
水流の勢いの加減が人によって違いますし、時計に直接かけるのは避けたほうが良いと言っているメーカーもありますから。

ちなみに、国内メーカー各社の「水道」に関しての見解は次の通りです。
・SEIKO 「直接蛇口から水をかけることは避けてください。」
・CASIO  水道に関する説明なし
・ORIENT 「勢いのある水道の水を直接あてるなどのことは避けてください。」
・CITIZEN  水道に関する説明なし

正直なところ、シャワーを上に向けた時に噴水高さが1m以下であれば、1mH2O≒0.1kgf/cm2≒0.1気圧なので、全く問題ないと個人的には思います・・・。
海で使用した後は、塩分を取除くために水洗しないといけないので、KenUは気にせず直接蛇口の水で洗います。

10気圧防水腕時計を洗面所でシャワー洗浄(勢い強めで撮影)
SEIKO5 SPORTS シャワー洗浄←My SEIKO5 SPORTS SNZE93K1

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その6「お風呂から上がって時計が急激に冷えた場合に結露が生じる?」

結露は飽和水蒸気量と露点の関係で生じるので、急激に冷える事との因果関係はありません。
お風呂から上がって結露してガラスの内側に曇りが生じるような時計であれば、真冬に部屋から外に出ただけでも結露が生じて曇るはずです。
飽和水蒸気量より

お風呂上りや、冬場に結露が生じて窓がくもる時計は、風呂に入る入らない関係なしに、既になんらかの原因で時計内部の湿度が新品購入時よりも高くなっていると考えられます。
時計の窓が、夏はくもらないけれど、冬にくもる場合(スキー場や厳寒地を除く)は、時計内部に水分が入り込んでいるかも知れません。

水分が入り込む原因としては、例えば、、、
時計屋さんが、メーカーに電池交換+パッキン交換+防水テストを依頼せずに、自分で裏蓋を開けて電池交換だけをして防水性能を低下させたとか?
しかも、梅雨時の高湿度下で時計屋さんが電池交換のために裏蓋を開けたとか?
長期間使用によって既に時計の防水性が低下していて水分が浸入したとか?
濡れたままの時計のリューズを引っ張って、押し込む時に中に水が入ったとか?
水中でクロノグラフ時計のボタン操作をして浸水したとか?
いろいろな原因が考えられます。

ちなみに、国内メーカー各社の「くもり」に関しての説明は次の通りです。
・SEIKO 「外気と時計内部の温度差によりくもりが生じる事があります。」
・CASIO 「時計が急冷された場合など、ガラスの内側が曇ることがあります。」
・ORIENT 「時計内部には多少の湿気がありますので、外気が時計内部の温度より低いときにはガラス面がくもる場合があります。」
・CITIZEN  結露に関する説明なし。
結露の原理を簡単にうまく説明できないので、各社不統一になっているのかも知れません。

時計の結露現象を例えてみると、、、
水を入れたガラス蓋付きの鍋の底を暖めると、ガラス蓋に水滴が付きますよね?。
そして常温まで自然冷却してもガラス蓋に水滴が付いたままです。
これが既に中に過剰な水分が入り込んでいる腕時計です。
では、空っぽのガラス蓋付きの鍋の底を暖めても、ガラス蓋に水滴は付きませんよね?。
そして常温まで自然冷却してもガラス蓋に水滴は付きません。
これが過剰な水分が入り込んでいない時計ですから、入浴後に冷えても結露しません。

次に、空っぽのガラス蓋付きの鍋のガラス部分を氷で冷やしてみると、フタ内側に鍋の中の空気中に含まれる水蒸気が凝結してくもりを生じます。
しかし、常温に戻すと水滴は水蒸気に戻りくもりは消えます。
これが時計メーカーの言っている「くもり」が生じる現象です。

「時計内部には多少の湿気がありますので、湿気が水滴に変わる温度まで時計のガラス面が冷えた場合にガラス内側がくもる場合があります。何らかの原因で時計内部の湿気が増えた場合には、ガラス内側がくもりやすくなります。また、冷えた時計を暖かい場所に移動した場合にガラス外側が結露して曇ることがあります。」 と説明するのが正解と思います。

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ということで、検証実験をしました(※防水カメラSONY TX-20で写真撮影)。

10気圧防水(Water Resistant 100m)のSEIKO5 SPORTSを腕につけたまま入浴し、実験の前に何度も湯中で腕を激しく振ったり、クロールのように強く腕を湯面に叩きつけたりしました。

10気圧防水(Water Resistant 100m)SEIKO5 SPORTS
SEIKO5 SPORTS 入浴←41℃の風呂に入浴

次に時計が温まったところで、すぐに氷水に漬けて急激に冷却しました。
SEIKO5 SPORTS 急激氷冷←氷水に浸漬

窓の内側はくもることなく結露は見られません。裏透け(ガラス裏蓋)にもくもりはありません。
SEIKO5 SPORTS 急激氷冷 窓状態←窓の内側に結露は観察されず。

これで結露して窓の内側が曇るようであれば、風呂に入れる前から時計内部に水分が入り込んでいたか、防水性能が既に低下していた、もしくはエセ防水表示時計だったということになると思います。

氷水から取り出したところ、窓の外側がくもりました。風呂の湿度が高いからです。
SEIKO5 SPORTS氷水から取出し時の窓外側結露←窓の外側が結露。

再び湯船にジャポンと漬けて、急激に暖めて見ました。
SEIKO5 SPORTS 再入浴←冷えた時計を風呂で急加熱

これで浸水するかどうかをさらに試してみた訳です。

さらに、別の検証実験もやってみました。

後から出てきますがステンレスは熱伝導率が高く冷めやすいので、実験するにあたって時計内部の水蒸気圧を上げるために保温します。タオルの切れ端とガムテープで保温材を作ります。
腕時計保温材料

温度は、保温しても体温まで上昇しないので、体温計では測定できません。この時の室温は20℃。
腕時計保温温度測定←時計バンドにタオルを被せてガムテープで固定

時計を保温した状態で、ガラス窓を氷で冷やします。
腕時計窓氷冷←時刻9:39分

窓の内側が結露してくもりました。
腕時計窓結露←時刻9:41分

そのまま放置しておくと、くもりはとれました。室温は20℃です。
腕時計窓結露消失←時刻9:43分

ということで、結露はお風呂に入る入らないは関係ないということがわかりますし、風呂で時計内部に水分は入り込んでいないということが分かりました。

あとから思いついて、200mダイバーズ(潜水防水)ウォッチでも同様に実験してみました。
ウレタンバンドで熱伝導率が低いし、面倒だったので保温無しでの実験です。

SEIKO Kinetic Diver’s 200m
SEIKO Kinetic Diver's 200m 窓氷冷

ダイバーウォッチでも窓を氷冷すると内側に結露を生じてくもりました。
SEIKO Kinetic Diver's 200m 結露←結露してもすぐにくもりは消失しました。

10気圧防水だからくもってダイバーズウォッチだからくもらないということは無いし、風呂は関係無いということが実証できたと思います。

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ちなみに、1950~1960年代の時計にはプレキシガラス(いわゆるプラ風防。材質:ポリメタクリル酸メチル;PMMA)が主に使用され、プレキシガラスは透湿性があり水蒸気を透過して時計内部の湿度を高めるので結露しやすいことがわかっています。→ 妙訳・高野精密研究部、G.Glaser.Schrambsrg著:時計が露滴で曇るのを防げるか?、日本時計学会誌 (8), 73-80, 1958-12-10

現在一般的に時計の風防に用いられているミネラルガラスの水蒸気透過性はほぼゼロなのに対して、PMMA(厚さ25μm)の25℃90%RHにおける水蒸気透過性は41 [ g/m2・24h ] となっており、0.3%もの吸水率があります。

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その7「風呂から上がって冷えた時に腕時計内部の空気が収縮して水蒸気を吸い込む?」

10気圧防水以上の密封された腕時計内部は、お風呂で温められて陽圧(正圧)になったものが、お風呂あがりに常圧に戻るだけ、つまり陰圧(負圧)にならないので、水蒸気を吸い込むようなフォースは生じません。

暖められて膨張した空気がお湯の中でブクブクと気泡になって漏れ出たのならば、冷えて収縮した時の空気量は元の状態よりも減り陰圧(負圧)になるので、吸い込むようなフォースは生じます。

まあ、空気が漏れるということは防水時計の性能を保持していないので、お風呂が云々言う以前の問題です。

一応「その2」と同様に、時計が5℃まで冷えた時の時計内部の圧力を計算してみると、25℃で1気圧だったものが0.93気圧になります。少し負圧になる計算です。
ですが、この程度の負圧で水蒸気を吸い込むようであれば防水テストなど合格するはずがありません。

では台風を考えてみましょう。
大気圧1気圧というのは1013hPa(ヘクトパスカル)ですが、例えば940hPaの台風は中心気圧が0.93気圧ということになります。台風で10気圧防水時計内部の空気が出入りしていたら、お風呂に入る入らない関係なく湿度90%にもなる日本で防水性が保たれるはずがありませんよね。

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その8「お風呂の温度(40℃前後)で時計が壊れる?」

たとえば、SEIKOクオーツ腕時計(7T62)の取扱説明書を見てみると、「 作動温度範囲は-10℃~+60℃です。」と書いてあります。

また、スウォッチ(SWATCH)では「時計が正常に作動する温度範囲は0℃~+50℃(常温)です。」となっています。

CASIOのHPのサポートQ&Aでは、「高温に耐えられますか?という質問」に対して「+60℃以上の所に長時間放置すると液晶パネルに支障をきたすことがあります・・・」と回答していますので、液晶パネルのデジタル時計でも、それ以下の温度であれば問題無いということが読み取れます。昇温での液晶の劣化に関しても、前述のアレニウス式に従うものと考えられます。

したがって、お風呂での作動はまったく問題無いということがわかります。

ちなみに、真夏の直射日光下では腕時計はお風呂よりも熱い45℃まで加熱されます。
ソーラーウォッチは太陽光をあてて充電して下さいと書いてあります。
SEIKOサポート情報 ソーラー時計のしくみと充電より

それから、お風呂の40℃程度の温度で壊れるようなら、6月~9月の平均気温が40℃を超えるサウジアラビアでは腕時計を使用できないということになってしまいます。
データリスト(世界の月天候データ) 気象庁より

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と、ここまで検証した限りでは、”全然お風呂問題ないじゃん。”ということになりました。

上記のことくらいでダメなのであれば、お風呂に入れなくても、夏に半袖姿で時計を身に着けるのはアウトですし、海水浴にもスキーにも山にもして行けませんし、なんのためのスポーツ防水ウォッチなのか分かりませんよね。部屋に飾って置くしかありません(笑。

でも、やっぱりお風呂はダメなんです。
それは何故か?
入浴時にせっけんやシャンプーを使用するからなんです。

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その9「せっけんやシャンプーが防水性能を低下させる?」

せっけんやシャンプーは界面活性剤です。
界面活性剤は水の界面張力を低下させて防水パッキンになじみやすくし、時計の経年劣化等で防水性能が低下している時には内部に水を浸透させやすくする性質があります。
防水パッキンに界面活性剤が固着すると、さらに防水性能の低下を生じる事になるでしょう。
Kao界面活性剤とは?より

さらに、水は温度が上昇すると粘性が低下して表面張力が低下するので、お風呂で界面活性剤と合わさるとさらに浸透性が高まることになります。
25℃の時の粘度0.890cP[mPa・s]が40℃では0.653cPに低下します。
純水の粘度より

また、「その1」のところで説明したように、防水パッキンにはシリコングリースが塗布されており、界面活性剤の洗浄効果により防水パッキンのシリコングリースが除去されて、撥水性、耐水性、耐汗性が低下し、防水性能の低下につながります。

シャンプーや石鹸は陰イオン界面活性剤が使用され硫酸塩などの構造を持つものがあり、その吸湿性とともに時計を腐食させることがあるそうです。
防水パッキン周辺部分に錆びが生じれば、防水パッキンと時計部品との間に微小な隙間が生じて防水性能は低下し、界面活性剤の浸透性との相乗効果により入浴時に浸水することになります。
論文→ 羽木秀樹、渡邊寛史:湿度の異なる大気環境下での界面活性剤によるステンレス鋼の腐食、日本機械学会北陸信越支部第45期総会・講演会講演論文集、2008, 11-12.

時計メーカーの取扱説明書にも「洗剤等(石鹸・シャンプーなど)のご使用をお避けください。」と書いてあります。
時計をつけたままお風呂に入らないとしても、せっけんでの手洗いや洗剤での食器洗いの際にも気をつけたほうが良いでしょう。

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それと、「日常生活用防水腕時計は水洗いせず、ウェットティッシュで拭くと良い・・・」などと言う人がいますが、これ最悪な行為です。それは何故か・・・

ウェットティッシュには腕時計に悪影響を及ぼす沢山の成分が入っているからなんです。

・エタノール(アルコール):水よりもかなり表面張力が低いので防水パッキン内への浸透性が高い。他の成分も一緒に浸透させてしまう。時計を劣化させる有機溶剤でありメーカーサポートでも使用しないように注意あり。
・塩化ベンザルコニウム:陽イオン界面活性剤であり、時計内部への水分浸透性を高め、またそれ自身に金属腐食性がある。
・グリセリンまたはプロピレングリコール:吸湿性あり(乾燥しにくく他物質と合わさり時計の腐食を促進)
・メチルパラベン(パラオキシ安息香酸メチル):軽度の皮膚刺激性あり(MSDSより)
・塩化ナトリウム:金属腐食性あり

はい、もうお分かりですね。防水パッキンを痛めたり、時計内部への水分浸透を助けたり、時計を錆びやすくして、防水性を低下させる成分でいっぱいなんです。 ですから、ウェットティッシュでふくよりも水洗いしたほうがましなんです。

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以上、”10気圧防水時計をつけたままお風呂には入らないほうが良い”という結論に達しました。

じゃあ、シャンプー・石鹸・シャワーもしないで、湯船につかるだけならOK?
まあ、責任は取れませんがOKでは?と思います。

それで、こんなこと↓もやって見ています。
日常生活用防水(3気圧防水、W.R.3bar)腕時計を風呂に沈めてみた。

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結論は出てしまいましたが、「大丈夫」と言われている理由の一つについて、一応検証しておきます。

そのイ「体温が37℃、風呂が40℃で、3℃しか違わないから大丈夫?」

これは人の体温が37℃なので時計も37℃に暖められているから、40℃の風呂に入っても、3℃しか違わないから大丈夫というものです。

実は体内の温度(直腸温)は36~38℃ですが、皮膚の表面温度は外気温にも左右されますが32~34℃程度なのです。
平均皮温・体内温予測モデルを用いた暑熱環境の評価より

では、腕時計は皮膚温度と同じ32~34℃にまで暖められるのか?と言えばそうではなくて、熱伝導率の高い金属で作られている腕時計は外気温で冷やされて25℃程度の温度にまで低下する訳です。
なので、時計が皮膚温で暖められるよりも、外気温で冷えた時計で皮膚が冷やされるということになります。

皮膚と時計の接触面の温度(T)は、
T=(皮膚の温度T1×皮膚の熱伝導率λ1+時計の温度T2×時計の熱伝導率λ2)÷(皮膚の熱伝導率λ1+時計の熱伝導率λ2)
で求める事ができ、
皮膚の熱伝導率(λ1)=0.39W/(m・℃) 皮膚表面の熱伝導率について(PDF)より
時計(SUS316L)の熱伝導率(λ2) =16.3 W/(m・℃) ステンレス協会より
皮膚の表面温度(T1) = 33℃
時計の温度(T2) = 25℃
とすると、
(33*0.39+25*16.3)/(0.39+16.3)=25.2℃ となります。

ということで、そのイの根拠は間違っているということになります。

しかし、腕時計は体温の影響をそれほど受けないとしても、熱伝導率が高いことや人体のような温度調節機能が無いことから、皮膚よりも外気温、直射日光(日当たり)、衣類の被さり具合の影響を受けることになるので、温度変化の変動幅はお風呂に入るよりも大きいでしょう。

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その他「温泉は? サウナは?」

”風呂と温泉”、”風呂とサウナ”、”サウナと温泉” はその環境が全然違いますから、それらを同列で考えるのは誤りです。

サウナは高温(乾熱90℃)なので、熱伝導率が高い時計は加熱されて高温になるので、「その4」に書いた時計油の使用温度範囲を超えるので時計の精度が低下してしまったり壊れてしまう可能性もあるでしょう。
また、クオーツ時計のボタン電池SR626SWは、使用温度範囲がマイナス10℃~60℃となっているので、ダメージを受けると予想されます。
maxell(マクセル)SR626SWデータシート(PDF)より

さらに、サウナで加熱された時計と皮膚とが接触した場合には、やけど(熱傷)する危険があるでしょう。

温泉はステンレスを腐食する成分を含んでいるので、時計の錆び発生を促進し防水性能に与える影響は良くないと思います。
あとから真水で洗っても錆びるようです。
ステンレスと「サビ」より

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最後に・・・

これまで、色々と調べて10気圧防水腕時計に関するシリーズ記事を書きました。

そこで思ったのが、
よく見かける 「10気圧防水時計で水泳、風呂・・・だめ、手洗い・洗顔や水仕事(家事、洗濯等)ができる程度です。」
という回答が、実は一番間違っているのでは?・・・と。

手洗い・洗顔や家事では、ほとんどの場合は、せっけんや洗剤を使用しますよね?。
10気圧防水だから、手洗い等で腕時計が濡れても大丈夫と思い込んでいます。
つまり、手洗い・洗顔時に石鹸や洗剤が時計に付着しても全く気にしていません。
そして、毎日毎日、手洗い・洗顔・水仕事を行います。
つまり、毎日毎日、腕時計の防水性能を低下させる行為を知らず知らずのうちに繰り返している訳です。

そして、たまーにしか行かない海水浴に行き、毎日の手洗い・洗顔・水仕事で思いきり防水性能が低下した時計をつけたまま海で泳いで、「泳げるって書いてあるのに浸水したぁ~」となり、「10気圧防水で・・・ダメ」と言っているのではないか?と思いました。

「10気圧防水腕時計で水泳、入浴はできるが、手洗い・洗顔・水仕事をしてはいけない!」
というのが、本当のところなのかも知れません(笑

取扱説明書をよくお読みになって、そのメーカーの言う(←ここポイント)注意事項を守って、お気に入りの時計を大切になさって下さい。
OMEGA時計の説明書では、”防水ケースの時計が汚れたときには薄めた洗剤をつけてブラシでこすって洗って下さい”などと書いてありますが、他のメーカーの時計は絶対に真似をしないようにしましょう。(※OMEGA シーマスター300買いました。関連記事参照。絶対に洗剤をつけてブラシでこすって洗ったりしませんよ。)

それから、関連記事にも書いたのですが、ねじ込みリューズでなくてもJIS規格及びISO規格において、リューズやボタンに軸方向と垂直方向に5N(約500g)の荷重をかけて水中に沈める”操作部防水性試験”によってリューズやボタンの防水性が確認されています。

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